15:眩暈を起こすような
「はっドジ…ちゃった…」
「!もう喋らないで下さい」
ニコルの苦しそうに歪んだ顔が霞んで見える
何が苦しいの?
痛くて苦しいのは私の方のハズでしょう?
そんな顔しないで…ニコル
「死なないで下さい…ずっと僕の側に…いて下さい…」
ごめん。
それは無理な話
もう痛くないの
もう苦しくないの
だから、私は…
光が見える
天から射した光は、私を包んで天へ運ぶ
良かった、私天国へ行けるんだ
バイバイ、お父さんお母さん
バイバイ…ニコル
最期にあなたと話せて良かった
胸の前で手を組み、ゆっくり私は天に昇る
と、思いきや
突然誰かに足を掴まれて上昇が止まった
「…え?なになに!?」
足元に視線をおろすと
私の足をがっちり掴み、極上の笑みを浮かべたニコルが
私を見ていた
「どこに行くんですか?」
「え…死んだので…成仏を…」
「さっき言ったじゃないですか。ずっと傍にいて下さいって」
「いや…でも…」
「勝手に成仏するなんて、僕が許すと思いますか?」
感覚なんて無いハズなのに
冷や汗が、額を伝った気がした
成仏させてよ!
「んー、なんか変なカンジ」
「まだ慣れませんか?」
「慣れない…」
通路を歩くニコルの隣で、浮いている私
ニコルが足を離してくれなかったおかげで
成仏するタイミングを失った私は
仕方なく、幽霊として日々を送っている
「そんなに違うんですか?生きているのと死んでいるのは」
「ビミョーにね、透けてる感とか。なにより感覚が無いのが変な感覚」
「言い方おかしいですけど、なんとなく分かります」
笑って返して、扉の前でニコルが止まる
急に止まれなかった私は
ニコルを通り抜けて、やっと止まった
「どこに行くのかと思ってたら…」
扉を開くニコルの隣で呟く
ここは、アスランの部屋
「アスラン。入ってもいいですか?」
「…ニコルか。ああ、入ってくれ」
ベッドに腰かけ、頭だけをこちらに向けたアスランは
どこか力ない
近寄ってよく見ると、瞼は腫れて目も赤かった
泣いていたのかな?
なんで?
「ニコル…の事は本当に――」
そこまで言って、アスランは辛そうに俯く
…そうか、私の為に泣いてくれていたんだ
折角泣いてくれてるのに
私まだここにいるんだよなぁ…
「悲しいですが、受け入れなければいけませんよ」
「けど!すぐに受け入れられるか!?特にお前は…の事――」
「アスラン」
アスランの声にニコルの優しい声が被さった
今にも泣き出しそうなアスランの肩に手を置き
悲しげにニコルは笑った
多分演技だ
「いいんです。は、今でも僕の傍にいますから」
「ニコル…」
「だから僕は大丈夫。アスランも早く受けとめて下さい」
「お前って…お前ってやつは…」
単にニコルは事実を言っただけだけど
私が見えないアスランには、いじらしく聞こえたらしい
我慢できず、涙を流したアスランを見
少し、悪い気がした
「なーんか、アスランを騙した気分」
「僕は事実を言っただけですよ」
「そうなんだけどさ」
でも、アスランは心から悲しんで泣いていた
私が成仏もせず、ここに留まっている事を知ったら
もう泣かないで済むのに
アスランにも私が見えればいいのに
「それじゃあ僕が面白くありません」
「なっ…!心を読んだの!?」
「の考えている事なんて、言わなくても分かりますよ」
侮りがたし、二コル!
「アスランには見えませんよ」
「ど、どうして?」
「は僕にしか見る事ができません」
「ニコルしか…?
「…は、どうして僕がの成仏を阻止できたか分かりますか?」
にこりと笑ったニコルが私を見上げる
どうして阻止できたか…
ニコルなら何でも出来そうな気がするんだけど
腹黒いから
分からない。と首を数回横に振る
「それはですね、僕が一番を――」
言いかけて、一度閉じたニコルの口の端が吊りあがる
「やっぱり理由は、自分で考えて下さい」
「な、なんで!?」
「いいじゃないですか、たまには自分で考えないと」
不敵な笑みを残し、くるりと背を向けたニコルが
歩き出す
「なんか気になるから教えてよー」
慌てて後を追った私を見ずに言った
楽しそうなニコルの声
「ゆっくり考えて下さい。時間はたっぷりあるんですから」
どうやら、まだまだ成仏はさせてもらえないようです
End
ニコルなら絶対できる!
と、思います。