23:世界中で君だけ 後編
『…心配だな』
『何が?』
『の任務だよ』
『あぁ』
『あぁって…分かってるのか?とても危険な任務なんだぞ?』
『分かってるわよ。一応』
『一応って…』
『でも、これは私にしかできない事でしょ?』
『…そうだが…』
『危険だけど、とても良い作戦だと思うわ』
『心配する暇があったら、ちゃんと自分の任務を成功させて』
『アスラン達の任務が成功すれば、私もすぐに帰ってこれるんだから』
『…ああ』
『…でも、ありがとう。心配してくれて』
『…そんなの、当然だろ』
『ありがとう、アスラン』
足から一気に力が抜け出して
倒れそうになる体を、近くにあるものでなんとか支えた
どうして…?
その言葉だけが頭の中で回る
どうしてどうしてどうして
ミリアリアもサイも艦長も
みんなが彼の生還を、喜んで、泣いて
私は混乱する頭を抱えながら、離れた場所で眺める
どうしてどうしてどうして
どうしてあなたが生きてるの?
急激に視界がぼやける
悔しい悲しい
目一杯に溢れた涙が零れて落ちる
くやしいかなしい
「?」
こちらを振り返ったミリアリアが
やはり涙で滲んだ目で私を見た
「…あ、ごめん」
全てを言ってしまえば楽なのに
「嬉しくて…キラが生きてて…」
私はまだ演じ続けている
「謝ることないよ。私だってうれし泣きで、こんなボロボロ」
照れくさそうに笑うミリアリアの
向こうにあった紫の瞳と目が合った
キラ・ヤマト
「キラ、ったら毎日泣いてたんだから」
「ちょ、ちょっとミリィ!」
からかうように、キラに報告するミリィに
私は心底焦っているという声を出す
もう演じる必要はないのに
「毎日…?」
私から目を逸らさないままのキラが呟く
「そうよ、ね?」
「そ、そんな事バラさないでよ…ミリィ」
言ってしまえばいいのに
私が毎日泣いていた、本当の理由を
「そう…なんだ」
ようやく私から視線を外し
少し俯いたキラは笑った…ように見えた
とても悲しそうに、とても寂しそうに
「」
「何?」
再び目を合わせたキラが言う
「ちょっといいかな?話しがしたいんだ、二人だけで」
前を歩いていたキラが立ち止まり
私は顔を上げて、キラの背中と展望デッキのガラスに映る
瞳を伏せがちにしている顔を見た
「毎日、泣いてたの?」
唐突に聞かれ、一瞬言葉を詰まらせてから
小さく、そうよと答える
「誰の為に?」
「…何…それ、どういう意味?」
「そのままの意味だよ」
心臓が大きく跳ねて
冷静に対応しようと焦って、唇が小さく震える
「わ…私は、キラが」
正体がバレている?そんな筈はない
冷静になって、上手い言い訳を…
「キラが、イージスの自爆に巻き込まれて…死んだと、思って」
違う、そうじゃない
アスラン…
言い訳なんてするだけ無駄なのに
「だから…だから…」
「いいんだよ、もう」
はっきりした声に、肩が震えた
くるりと体を反転させたキラの、ガラス越しではない瞳を見つめた
「もう、何も隠す必要はないよ」
その言葉に、その瞳に
私の正体も、涙の理由も、キラは全てを知っているのだと悟った
なら、言ってしまえ
心が囁く
涙と一緒に、感情が零れ落ちた
「…あなたの為に…泣いてたんじゃない…」
「…うん」
「アスラン…死んで…」
両手を強く握り締めた
「どうしてあなたが生きてるの…?」
「うん」
「アスランはもう…いないのに、どうしてあなたが――」
「ごめんね」
言葉と同時にキラの腕が伸びてきて
優しく私を包み込んだ
「ごめん。ごめんね、」
私は抵抗もせず、ただ固く瞼を閉めた
「ごめんね…」
謝らないで
アスランはもう戻ってこない
謝らないで
あなたのせいじゃない
End
後半ようやくアップできました!
一応このお話は後半で終わるのですが
できれば、これより以前の話を連載できたらなー…なんて
考えたりしていたりしていたりします。
あと、この話のその後(アスラン生還後)もできれば書きたいです。