24:もうすぐ終わりの鐘が鳴る
ざわつきだした船内
怒声の内容に察しがついて、私は忌々しく舌打ちした
「まぁ、はしたないですわ」
ギスギスした空気とは対照的なのんびりとした声
隣に座る声の主に向き直って
すみません。と謝り
でも。と付け足す
「この状況は、とても笑って過ごせるものではありません。
このままでは…」
最悪の事態もありうる
声に出すとその言葉は現実味を帯びてきそうで
思わず口を閉じた
「このままでは、何が起こりますの?」
何も分からず、純粋に次の言葉を促してくるのは
やはり彼女が軍人ではないからだろうか
彼女の素直な疑問に答える為
私は押し留めていた言葉を吐いた
「…このままでは、最悪の事態も」
「最悪の事態?」
「この船が、戦場になるかもしれません」
「まぁ、どうして?」
彼女の疑問ももっともだ
この船はただの慰霊団。
それも、下見の為の予行船
いくら兵士が乗ってるといっても
ただの護衛でしかない
私だって、この歌姫を“もしも”の時に護るだけにここに居る
戦闘をしにきている者は一人もいない、のに
「わたくし達は祈る為だけに来ただけですのに」
「彼等にはそれさえも、充分な戦闘の理由になるのでしょう」
「…悲しいですわ」
伏せられた瞳が私の心を締めつける
平和を祈り歌う事しかできないこの歌姫は
悲惨な現実を悲しむしかできない
戦うことしかできない、私も
彼女とそう変わる所はないのかもしれないけど
感傷に浸りかけていた思考を中断し
軽く頭を振って気分を戻す
彼女の手を強すぎない程度に掴み立ちあがった
「?」
「救命ポッドへ」
もうじき、ここが戦場…
もしくは一方的な攻撃を受けるのは避けられないんだろう
さっきよりも慌しくなった空気が言ってる
彼女だけは脱出させないと
こんな所で死なせるわけにはいかない
彼女を護るのが、私の役目で
彼女は平和のともし火で
それから…アスランの、
大事な婚約者。
頭でその言葉を呟くと、皮肉な笑みがこぼれかけた
救命ポッドがある、船の最後尾に辿りつくと
すでに数人の兵士が準備をして、待機していた
「ラクス様、さ、ポッドの中へ」
彼女をポッドへ促すと
ポットに向かいつつも疑問を持った顔を向けてくる
「は…どうなさいますの?」
「ここに残ります」
「そんなっはわたくしの護衛でしょう?ならば――」
ここに残るという意味を
彼女はちゃんと理解できたらしい
彼女にしては珍しく不安気な声
「私も、一応軍人ですから、逃げるワケにはいきません」
「けれど…」
しぶる彼女を見て
その手に収められている、ピンクの球体を見た
全く緊張感がなくて、独特のしゃべり方をするそれに
製作者を重ねた
アスラン…。
「ラクス様」
無意識に彼女の名を呼んで
視線も、彼女の悲しげな顔に移す
「お願い、聞いてもらえますか?」
「何、ですか?」
「伝えて欲しい事があるんです。アスランに――」
ポッドが射出され
宇宙空間に飲み込まれていく
彼女は今、闇の中
でも、必ず暖かい光にもう一度会う事ができる
そうじゃないと困る
ここは、
彼女が残した僅かな暖かさが消えれば
あとは、闇
「ラクス様…お願い」
私の伝えた遺言は
緊張感なんて無かったかもしれない
可愛らしさも、色気も無かったかもしれない
けど
「必ず、アスランに伝えて下さいね」
ゆっくり目を閉じて
愛しい笑顔をまぶたに描いて
焼き付けて
一度小さく微笑むと
私は、目を開けた
End
アスラン夢だと言い張ります!
いや、でも本当は最初
ラクス夢かアスラン夢か、どっちにしようかと悩んだんですが
アスラン好きヒロインなので
アスラン夢でいいか…と
ヒロインも赤で、クルーゼ隊ですが
特別にアスラン達とは別任務のラクス護衛をしていたのですが
例の、慰霊団襲撃事件(ちょっと違う)に巻き込まれた。
…という設定でした。