28:繋いだ、手。
おとうさん
「お父さん…」
おかあさん
「お母さん…」
どこに行っちゃったの?
「どこ…?」
さっきまではここにいたのに
一緒に逃げてて、私はお父さんの手を握っていて
「どこ…?」
きっとはぐれてしまったんだ
目の前の大きく抉れた地面
何かが爆発して
そして私は爆風に飛ばされて、手を離してしまった
探さなきゃ…探さなきゃいけないのに
何人かの軍服を着た男の人達が無理矢理
私をその場から引き剥がし
大きな船の中に連れていった
私は探さなきゃいけないのに
「離して…!探さなきゃ…私、探さなきゃ!」
必死に訴えても、男の人達はダメだと首を振るばかり
船からは出してくれない
ここから出るいい方法はないかと、周りを見まわすと
見知った姿が目に入った
「…シン!」
うずくまって、膝に埋めていた顔がこちらを向く
赤い瞳はどこか虚ろだけど、やっぱりシンだ
私は心強い味方を手に入れた気になって
シンの元へ駆け寄った
「…」
「ね、シン。シンからもお願いしてよ、私探さなくちゃ」
「…」
「私、お父さんとお母さんと一緒に逃げてたのに…はぐれちゃって」
「…」
「手、繋いでたのに、目の前が爆発して…それで手を離しちゃって」
「…」
「探さないと…ね、シン。シンも一緒に探してよ…ねぇ」
「ダメだよ」
シンと同じ目線まで、しゃがみ込んだ
私とは目を合わせず、呟くようにシンが言う
「どうして?」
「探すだけ無駄だから」
「無駄?何で?」
「もういないんだ…」
「いない?何言ってるのシン?」
「もういない…死んだんだ!」
「死…んだ?」
お父さんとお母さんが?
シンは何を言っているんだろう
そんなことは有り得ない
だって、ただはぐれただけだから
お父さんとお母さんは私の前を走ってて
私の手をしかっり握って
爆発が起こって…私は吹き飛ばされて
「もういないんだ。のおじさんもおばさんも」
目の前の地面は大きく抉れていた
「俺の父さんも母さんも――」
お父さんの手を離してしまった
爆風に飛ばされて
目の前の地面は抉れていて
「マユも…!」
地面は抉れていた
お父さんとお母さんの居た場所が爆発した
「みんな死んだんだ!」
「あ…」
手の平を見ても、血はついていない
けれど、
「いや…だ」
震える手がシンの手を掴んだ
「いやだよ…シン」
握り返してくれたシンの手がかろうじて
私と、正気を繋ぎとめる
後から後から溢れる涙は
もう自分自身でも制御できない
「うっ…シン…」
目を閉じると、頭の中で何度も爆発のシーンが再生される
でも、爆発の瞬間お父さんとお母さんがどうなったのかは
見ていたハズだったのに、思い出せなかった
「…シン」
どれ位、時間が経ったのかは分からない
シンの隣で体を半分くっつけていた私は、掠れた声で呟いた
「ねぇ…シン」
涙はもう出尽くしてしまったらしい
「これから…どうしよう」
本当は“これから”なんて、どうでもよかった
ただ、何でもいいからシンと話しがしたかった
「俺は――」
霞む目でシンの顔を見る
シンはどこか遠くを見つめていた
「俺は、プラントに…行く」
「…そっか」
ひとりぼっちになってしまうんだと思ったけれど
よく分からなかった
感覚が麻痺しているのかもしれない
「…シンとも離れ離れになっちゃうんだ」
「も一緒に来いよ」
「私はダメだよ。プラントには行けない」
ナチュラルだから
「あ…ごめん…」
「謝らないでよ」
固まっていた口の筋肉が動いて、笑みの形を作った
「…プラントに行っても、また会えるよね」
「戦争が…終われば」
「終わるのかなぁ」
「分からない…」
じゃあ、もう会えないかもしれない
そう考えたら、ようやくそれは悲しいという感情が芽生えたけど
泣く程のものではなかったし
流せる涙ももうなかった
そしてシンはプラントへ旅だった
最後の握手をした時に、「いつかを迎えに来る」と
照れるような事を照れもせずにシンは言った
だから私はプラントには行けないんだって
そう苦笑で返したけれど
それでも迎えにくると言ったシンの赤い瞳は
力強かった
だから私は不覚にも、本当にいつか迎えに来てくれれば
それはとても素敵な事だろうと、思ってしまった
本当に独りぼっちになってしまった私は
何かと良くしてくれた軍人さんにお願いして
オーブ軍へ入隊した
この国を守りたい。なんて思ったからじゃない
ただ目の前のものに縋りたかっただけの
本当に不純な動機だった
縋って縋って、生きて
“いつか”シンが「迎えに来た」と笑ってくれるその日の為に
end
今更ながら、第1話のネタでした。
実はさりげなくNo.9夢の過去編だったりします。
そして、このお話とNo.9夢の間の話もあったりします。
まだ書いてませんが(爆)
“いつか”書けたらいいなと思ってます。
…それにしても、このお話のシン、プラント行くっていう決意早っ