03:その視線の先を知ってる





「おおっちゃんと頑張ってるねぇ。感心感心」


“ゼロ”の腹の下から出てくると同時に振りかかってきた声
防護メガネをずらして、見上げた声の主


「…仕事ですから」


自分でも可愛くないと実感する返答をすれば
あちらからも、同じようなコメントが来た

たった今私が整備を終えた“ゼロ”を軽く見まわし
彼は嬉しそうに鋼鉄のボディを手の甲で叩く


「うん、完璧。もうちゃん以外には整備頼めないな」

ちゃん、は止めて下さい。一応正規のクルーなんですから」

「へいへい」


絶対直す気ないこの人。

そう感じるには充分過ぎる程、気の抜けた返事で
私の小さな抗議をあしらった


いつも彼は私を小さな女の子のように扱う


確かに、整備班の中では一番若いから
年齢の近いキラ達に接するのと同じようになってしまうのかもしれないけど

あっちは仮のクルー、本来は何も知らない学生達だ

私は、正規のクルーなんだから
そろそろそれ相応の対応をして欲しい



「整備のお礼兼ねて、今度俺の部屋で飲まない?」

「それ、私以外の人に言ったらセクハラで訴えられますよ」


私は、これ位騒がないけど
彼の他意のないさらりとした誘い方も良いのかもしれない

でも、品格を落とすような事は無闇に言わない方がいい

ま、彼の品格がどうなろうと知った事ではないけど


私はわざとらしいため息を吐いて
わざとらしい目で彼を見つめる


「他の子を口説いてるトコなんかラミアス艦長に見られたら
 どうするんです?」

「え?」


溶けてしまいそうな程ヘラヘラした顔が微妙に強張った


「好きなんでしょう?艦長が」

「な、何を急に…」

「そして多分、艦長もフラガ少佐の事、好きですよ」


余裕を無くした彼の顔を見、少し微笑んでみせる

子供だと扱ってきた少女に図星をつかれ
“余裕のある男”の仮面を剥ぎ取られた気分は
どんなものなんだろう


「分かるんですよ、私には。艦長の考えが」

「へ、へぇ…」


なんとか平静を取り繕うとしているのか
彼は取ってつけたような笑みを浮かべる


「やっぱ女の子同士、そーゆーのって分かるもんなの?」

「まぁ、多少は分かるもんですけど、私はちょっと違います」


目は口程にものを言う
昔の人は本当にうまい事を言うもんだ

なんとなく納得しながら、
余裕を失った彼の瞳を覗き込む


「いつも、見てますから」


一瞬、彼の瞳に疑問の色が浮かんだ

私がいつも見ているのは


誰?


完全に腰の引けている彼に見せたこの笑顔は
どんな風に映ったのだろうか?


歪んでいた?


「そして…見てみたいものがあるんです」

「見て…みたいもの…?」


遠くの方に現れた人影をチラリと確認して
彼の瞳を真っ直ぐに見つめる

一歩後ずさろうとした彼の腕を掴み

彼の唇に、私の唇を押し付けた


愛情の無い口付けは冷たく固い

でも、私の見たいものを見せてくれる


遠くの方で、顔色を無くしこちらを見つめ固まる
彼女の姿をみとめ


私は目だけで笑った



その顔が見たかったんです

ラミアス艦長。





End




ど、どうしたんだろう自分…

いや、なんだか突然こんな話を書きたくなったんです。

ラミアス艦長の驚く姿が見たくて
フラガ少佐とキャーな事をしてしまいました
だからといって、艦長に恋愛感情は持っておりませんのでご安心(?)を!
単におちょくりたかっただけみたいです。