09:「親友」
後編
「その…シンとは、恋人同士だったのか?」
ブフォ!と紅茶を吹き出した
そうなのか?と大真面目に重ねるアレックスさんを
吹き出した紅茶を顎に流したまま見上げる
「なっなんでそうなるんですか!」
「いや…なんとなく」
なんとなく、ですか
「ありえないです」
きっぱり言い切ると、なんで?と問いたそうな
表情が現れた
「だって…!」
理由を告げようとして、言葉を詰まらせる
どうして“ありえない”のか
考えてみて、理由が見つからない
極度のシスコンだから?
口が悪いから?
…どれも決定的じゃない
強いて言えば
「そんな事、想像したこともありませんでしたから…」
まぁ、そんな所だろう
「シンとは、幼馴染ってヤツです」
物心付いた頃には、すでにシンと遊んでいた
オモチャの車の取り合いをしたり
マユちゃんを取り合いしたり
いつも、何をするにも一緒だった
「恋人でこそありませんが、私はシンのこと
親友だと思っていたんですけどねー」
「けど?」
いつの間にかコーヒーを手に
目の前に座って居るアレックスさんを見
膝の上に置いたカップに目を落とした
「カガリ様のこと悪く言うなんて、絶交もんです」
「…は、シンの様には思わないのか?」
「え?」
「その…アスハのせいだって」
少し考えてみて、分かりませんと正直に答えた
「実際シンの言う通りだったとしても、カガリ様が私の恩人には変わりありません」
「そっか、そうだったな」
そう言ってアレックスさんは微笑む
その時のことを思い出しているらしい
「だから、悪く言うなんて絶対許せません
――あー、思い出しただけでムカツク」
クスリと苦笑されたのは
最後に吐き出した独り言に対してだった
少しの間の後
「親友、だから余計に頭に来るかもしれないけど」
不意に口を開いたアレックスさんを
顔を上げ見る
アレックスさんは、私の顔より上
天井の辺りを見つめていた
「いくら頭に来ても絶交なんて言っちゃいけないし
敵対しあっちゃいけない…なぁ?キラ――」
「キラ?」
時折、カガリ様とアレックスさんの会話から漏れ聞こえていた
名を口にした私を無視し
アレックスさんは少々アブナイ笑みを浮かべた
「そうだ…敵対しちゃ、いけない」
「あ、あの…アレックスさん?」
「だから、和解するんだ!シンと敵同士になっちゃいけない!」
…そういえば、アレックスさんは時々暴走するのだと
カガリ様が言っていた気がする
ネーミングセンスは無いし
服のセンスも常人には理解できないし
急に暴走するけど良いヤツだと紹介されたんだった
「いいか!話せばシンも分かってくれる
だから戦っちゃダメだ!その銃は撃っちゃいけない!」
私はそこまでシンと敵対したわけでも
するつもりもないんだけど…
肩をがっしり掴んで揺さぶってくる
アレックスさんの気迫に圧倒され
首を縦に二、三度振り
声にならない声で分かりましたと答えた
「はここで待っててくれ」
「え!?あ、でも…」
「いいな」
強い口調ではないものの
念を押され、渋々「はい」と答えた
とはいえ、馬鹿正直にこんな所で待ってたんじゃあ
無理に頼み込んでまで、ここまで連れて来てもらった意味がない
完全にカガリ様の姿が消えてから
こっそり後を追い、巨大な戦艦へ足を踏み入れた
戦艦の中なんて歩くの初めてだ…
早く目的の人物を見つけないと、迷子になってしまう
カガリ様と鉢合わせしてしまう可能性だってあるし
挙動不審な私は、ザフトに見つかったら射殺されてしまうかもしれない
射殺…
銃で、
バーン!と
「侵入者め、手を挙げろ」
「ひぃ!」
殺される!
咄嗟にお助け!と叫び両手を高く挙げ目を閉じる
誰かが、私の背後から正面に回ってきたのを気配で感じた
2年ぶりに死を覚悟した瞬間
「バーカ」
冷めた声が届き
ようやく声の主が、探してた目的の人物であること
今のは単にからかわれていたことを悟った
とりあえず目を開き、恥ずかしさを誤魔化す為
咳払いをひとつした後
口を開きかけた私を遮り、先にシンがふてぶてしい声を発した
「“カガリ様”専属の使用人ってのはこんなトコまで付いてくんのか?」
「な、ち、違うわよ!…私がここへ来たのは――」
少し見ない間に、鋭さが増した目を
真正面から見据える
「――シンと仲直りする為よ」
仲直りぃ?と素っ頓狂な声を挙げられた
これは想定内。想定内
「そ、仲直り」
「なんで」
「なんでって、折角再会したのにさ、ケンカなんて嫌じゃん」
「、お前誰かに言われて来ただろ」
ぐ。と一歩後退る
目力だけじゃなく、勘も鋭くなったようだ
嘘を付いても仕方ないので
一応肯定することにしよう
「そりゃ、言われたことは言われたけど」
「言われたのかよ」
「で、でも!だから仲直りしようって言ってんじゃないのよ」
確かに、アレックスさんには執拗に言われたけど
私自身も、本当は仲直りがしたい
「シン達さ、今日オーブを発つんでしょ?」
「…まぁ」
「だったら、笑顔で見送りたいの」
シンは大切な友達
笑って見送りたい
また笑って、再会できるように
「ね、仲直りしようよ」
右手を差し出すと、シンはじっとそれを見た
仲直りの、握手
シンの右手がおずおずと伸び
そっと、差し出した私の手を握った
「俺だって…好きでケンカしてたワケじゃないからな」
目を逸らし、若干気まずそうなシンを見、私は微笑む
これで、仲直り
昔のようにまた笑って――
なんて、穏やかな気持ちで思った矢先
「ま、再会は最悪だったけど結果オーライだよな。
も間違いを認めたし」
同じく穏やかな口調で言い放たれたシンの言葉に
私は思わず、はぁ?と返した
「間違いって何?なんのこと?」
「アスハのことだよ。俺の言い分が正しいって分かったから
謝りに来たんだろ?」
「いやいやいや、私が間違ってるなんて認めてないし」
「はぁ?たった今認めただろ?」
「私が言ったのはあくまで仲直りしようってことだけで
間違ってるなんて認める気ないから!てか間違ってるのはシンでしょ!!」
少し後ろによろめいたシンは
なんだよ。を三回繰り返し
いい加減目を覚ませよ!と怒鳴った
冗談じゃない、目ならとっくに覚めてますよと返せば
シンの両肩は怒りに震え出した
「馬鹿にしやがって…なら、力ずくで認めさせてやる!」
赤い瞳がこちらを睨み
突如目の前に現れた2つの掌が、目と鼻の先で
音をたて打ち合わさった
咄嗟に目を閉じた私の体が急に軽くなり
腹部に圧迫感を感じた時には、シンの肩に担がれていた
「ちょっ、な、何!?」
状況が理解できない
いや、シンが歩き出したので
どこかへ連れていかれるのだろうことだけは認識できた
「何処に連れてく気よ!降ろせ!降ろせー!」
赤い制服に包まれた背中を叩いてみても
効果は皆無だった
「んぎゃ!」
床に放り出された拍子に、後頭部を打った
痛む部位を擦り擦り、上半身を起こすと
格子柄の向うにシンの姿
「な、ななな…なんだぁ?」
急いで鉄製の格子に取りつき揺さぶる
びくともしない
開かない
閉じ込められた!
「じょ、冗談でしょ?シン…」
不自然な笑みを作った私を、シンは真っ直ぐ見据える
「自分の間違いを認めるまで、ここでしばらく頭冷やせバカ!」
それだけ、吐き捨てくるりと向きを変えると
一度も振り向かず歩き去った
何が、頭冷やせよ。
「バカはそっちでしょ、ばか」
返ってくる言葉は無く
しーんとした空間に、足元から湧く振動音だけが響く
「ん?」
振動音?
この艦、動いてる…
動いてるぅ!?
どうしてどうしてどうして?
「あ」
そうだ、今日この戦艦はオーブを発つんだった
ということは、
ヤバイ!
「シ…シンシンシン!ねぇ!シン!」
全力で鉄格子を揺さぶって叫ぶ
もちろんビクともしない
「シーーン!出してっここから出して!」
返事は無い
シンどころか誰も来ない
カガリ様は?
もうとっくにこの艦をおりているハズ
カガリ様は私が居なくなったことに気づいてくれただろうか
「ううっ…カガリ様ぁ…」
およよと崩れ落ちて、床に手をつくと
溢れ出した涙が掌に落ちた
こうして、巨大な戦艦は
たくさんのザフト兵と、憐れな使用人を乗せてーー
「シンの…バカヤロー!!」
そして、やっぱり誰からも返事は無かった
End
実はこの話の続きもあって、最初は連載にしようかとも思ったのですが
ちょっと連載やり過ぎなので(汗)とりあえず前後編にしてみました。
でも、いつかは連載したいな…
も、もし続き読んでやっても良いかなという場合は
メールor掲示板に一言頂ければ
とても喜びます。そして連載を…
ちなみにヒロインはアレックス=アスランだとは知っています
(11/12に加筆修正)