星の彼方へ、愛を込めて



『なぁ、来年こそはチョコくれよな』

『はいはい。あげるあげる』

『絶対だからな。約束しろよ』



あの時のやりとりを、シンは覚えているだろうか


「よしっ入った!後はコレを固めるだけ…っと」

ハートやら星やら、型に流し込んだチョコレートを零さないように
慎重に冷蔵庫へ運ぶ

2月14日。一年で唯一私がお菓子作りという女らしい行為をする日
面倒くさがりやの私が、丁寧にチョコを刻み、適温で溶かし、型に流し込んだ後
綺麗な箱に入れて、これまた丁寧にラッピングをする

渡せもしない、バレンタインのチョコレートなのに。

我ながら、不毛な行為だと思う
どうせ次の日には捨ててしまうのだ
丁寧に作る必要なんてない。そもそも作る必要すらないのかもしれない
渡したい相手は空の彼方にいる

平和を取り戻したオーブはバレンタインという一大イベントで盛り上がっているけれど
シンは、今日がバレンタインだという事も忘れて軍事訓練にいそしんでいるのだろうか


シンがまだオーブに居た頃、まだ私たちの周りが平和で幸せに満ちていた頃
私はバレンタインが嫌いだった
というよりも、バレンタインに浮き足出す姿をシンに見られたくないという
くだらない強がりだったのかもしれない

それでも、シンが来年こそは来年こそはと毎年せがむから
ようやく一大イベントに参戦しようとした矢先、シンは私の傍からいなくなった

それはそれで仕方の無かった事だとは思う
シンはすっかりオーブを憎んでしまっていたし、私の力でシンをオーブに留めるのは無理だった


「うーん、上出来。ちょっとは腕上げたかな」

自画自賛。
固まったチョコを箱に詰めてゆく
リボンを掛けて完成した手の平サイズの贈り物を窓際に飾る

本当にシンに渡す事が出来れば、シンはどんな反応をするだろうか
満面の笑みで喜んでくれるだろうか
明日は大雪になる。なんて憎まれ口を叩くだろうか

どれでもいい
どんな反応でもいいから、受け取って欲しい

そして


『楽しみだな、のチョコ』

『あんまり期待しないでね。がっかりな味かもしれないし』

『そんな事ないよ。ーーあ、でさ』

『ん?』

がチョコくれたら、その時に…伝えたい事あるから』


その言葉を、教えて欲しい





end



シン、バレンタイン夢…
遠距離恋愛に当たるんでしょうか、これも