放課後、校舎裏にて
”放課後、校舎裏にて”
繰り返し反芻した短い文章を斎藤は改めて読み返す
いつの間にか机の中に入れられていたそれは、手紙というよりも書状といった体をなしていた
きめの細かい和紙に、筆で書かれた文字
墨汁ではなく、きちんと墨を擦っているようだった
文字は丁寧に綴られ、女の書いたものにも見えるが
斎藤自身も文字は丁寧に書く為、ここから性別を判断するのは難しかった
果たし状でありながらとても感じが良い、と斎藤は思う
決闘を申し込まれている筈なのに、手紙には好感を持てた
不意打ちではなく、きちんと決闘を申し込んで来る点もポイントが高い
だからこそ、全力で相手に応える為に斎藤はここに立っていた
だが、決闘相手はなかなか現れない
もうかれこれ10分はこの校舎裏で待っているのだが、それらしい人物はなかなか来ない
腕時計を見て、斎藤は息をつく
はもう、帰っただろうか?それとも、自分を探しているだろうか。
斎藤の脳裏には花が咲いたように微笑む、若干美化されたが浮かんで消えた
決闘相手の誠実な態度に応えたいと、こちらを優先したが
本当ならばの元に行きたい
今日は2月14日、バレンタインデーなのだから
一年で最も無縁なイベントだと思っていた
けれど、今年は違う。かもしれなかった
自惚れかもしれない、とも思う
だが、斎藤が期待してしまう原因はの態度にあった
最近のは、斎藤と居てもどこか上の空だったり、妙にギクシャクとした笑顔だったり、斎藤に何かを言いかけてすぐに止めたり…
不可解なの態度を何気なく沖田に話した所、沖田は訳知り顔で呟いた
もうすぐバレンタインだからね。と
ならばに意中の相手でもいるのかと問うた斎藤に、沖田は呆れたように笑った
そんなの、一君以外に誰がいるのさ。
沖田の言葉を鵜呑みにしたわけではない
けれど、もしがチョコレートをくれるのならーー
欲しい、と思う
チョコレートが欲しいわけではない
欲しいのはの気持ちだ
そこまで考えて、斎藤は自身の思考に顔を赤くした
柄でもない事を思ってしまった
今は決闘に神経を集中させるべきで、とバレンタインに思いを馳せている場合ではない
頬をパチリと叩き、気合いを入れ直す
果たし状の相手に全力で挑む。そして見事勝利したならばに会いに行こう
この決闘に勝てば、が待っている
何故かそんな確信が斎藤の中に芽生え、同時に闘志が湧き上がってくる
宛名もない、たった一言だけを伝える手紙を持つ手に力が籠り
皺一つ無かった和紙がぐしゃりと握りつぶされた
来るならいつでも来い。
臨戦態勢に入った斎藤は、好戦的な笑みを浮かべて果たし状の主の訪れを待った
「ほらっ、斎藤先輩待ってるよ!早く行かないと」
「千鶴ちゃん…今行けっていうのは、死ねって言ってるのと同じだよ」
「どうして?」
「だ、だって見てよ…斎藤先輩てば殺る気満々じゃん…ヤバいよ、あれ絶対果たし状と勘違いしてるパターンだよ」
「…ちゃん、手紙に何て書いたの?」
「”放課後、校舎裏にて”って…確かに果たし状っぽいなっては思ったし、うっかり名前も書き忘れてたんだけど」
「それは…勘違いされてもしょうがないと思うよ」
「だよね。ーーわぁっ準備運動し始めちゃったよ!どどどどうしよう!?」
「これは…もう行くしかないよちゃん!いつまでもここで隠れて見てるだけにもいかないし」
「駄目だって!近づいた瞬間に殺されちゃうよ」
「大丈夫だよ。ちゃんだって気づいたら寸止めしてくれるって…だからホラ、早くそのチョコを渡しておーいーで!」
「え、だから駄目だって!あの状態はホントやばいって!押さないでっ押さないでー!」
end
斎藤さんの字って綺麗そう。
両想いなのに、からみがなくてすみませんっ