荊#2
髪を結い直し
が付けて欲しいとせがんだ簪を挿せば完成
「はい、出来たよ」
我ながら、上手く結えたと思う
恐る恐るといった手つきで髪を確認したは
沖田に振り返り、黒めがちの瞳で見上げて来た
「その簪、似合ってるよ」
「ほんとう?」
「うん。とっても可愛くなったよ、ちゃん」
笑顔で素直な感想を口にすると
は分かり易く顔を輝かせた
髪型ひとつで無邪気に喜ぶ姿が可愛くて、それに相手が幼い子どもだったから
つい、思ったままの言葉が口をついた
「とっても可愛くなったから、このまま僕のお嫁さんにしたいなぁ」
流石に後先考えない言葉だと思ったが
言われたがどんな反応を示すのか興味深くもあった
「総司のおよめさん……」
は沖田を見つめたまま、その言葉を噛み締めるように呟き
おずおずと口を開いた
「総司のおよめさんになったら、しあわせになれる?」
思わず苦笑してしまう
それはとても子どもらし過ぎて、反面とても難しい質問だったから
「それは……ちょっと難しいかな。幸せに出来ない可能性が高いね」
剣で生きる沖田の伴侶となるなら
人並みの幸せとはほど遠い人生になるだろう
毎日心配させるだろうし、妻だという事で危険に曝される事もあるかもしれない
などと、真面目に考えた自分自身に苦笑する
お嫁さんにしたい、と言ったのも思いたままを口にしただけで
冗談のようなものだ
だから、例え嘘でも幸せになれると答えてやれば良い筈なのに
沖田は正直に告げた
の顔が曇る
だがそれは、単純に落胆したというよりも
もっと深い事情があるように感じた
「じゃあ、総司のおよめさんになれない……」
「それは残念。でも、まぁ皆幸せになりたいに決まってるからね」
「……しあわせにならなくちゃいけないの」
どこか義務感のある響きに首を傾げる
は地面を見つめながら、独り言のように呟いた
「は、しあわせにならないといけないの。死ぬために」
「……」
死ぬ為に。
冗談で言っているわけではない
子どもが口にするには、その言葉は余りにも重すぎる
一瞬言葉を失った沖田が、口を開くより早くが沖田を見てにっこりと微笑んだ
「総司!つぎはあやとりしようよ!」
言うが早いか、は帯から輪にした紐を取り出し
あやとり遊びがしたいとせがみはじめた
その顔には先ほどの思い詰めた表情はどこにもない
けれど、あれは見間違いではない
この幼い少女は何かを抱え込んでいる。一体、何を抱え込んでいるというのか
「あやとり遊びは、あんまり得意じゃないんだけどな」
困ったように笑ってから紐を受け取りながら
沖田は、という少女の事をもう少し知りたいと思った
「でね、でね、総司がをおよめさんにしたいって」
「……」
その一言に、それまで鬱陶しそうにの話を聞き流していた薫が
鋭い視線でを射た
束の間を睨んでから、ふ。と口元を吊り上げた
「へぇ、沖田がそんな事をね……で、お前はなんて答えたの?」
「総司のおよめさんになってもしあわせになれないから、およめさんになれないって言った」
「あはは!ガキらしい断り方だな。ちょっと沖田に同情しちゃうよ」
「でも、はしあわせにならないといけないでしょう?」
薫が笑う理由が分からず、は首を傾げた
沖田の元へ行く事を許されたのは、よりに絶望を味わわせる為
ただそれだけの為だと理解している
沖田と絆を深め、幸せになってこの世に未練が出来た時こそ
薫は自分を殺すだろうと、も分かっている
だから、は幸せにならなければいけない……薫の為に
「……ああ、そうだったな。お前は幸せにならなくちゃね……未練たらしく死にたくないって泣き叫ぶ顔が早く見たいよ」
そう言って笑う顔が、時々泣いているようにも見えたからは戸惑った
だからこそ、思うのだ
薫が喜ぶのなら、この命を好きにしていい
けれど、自分が居なくなれば薫は独りぼっちになってしまう。と
そしてそれは、にとって何より悲しい事だとも
end
ドロドロというよりも、自分の本心に気付かない鈍い南雲兄妹と言った方が正しそう……
この後、沖田さん薫ヒロインの三角関係になる事必須です
連載だったら分岐とか面白そう……その辺りの妄想は日記に書こう
一応この話はこれでおしまいですが
リクあれば、その後の話も書きたいなと思ってます