my dear#1





木々が日の光を遮っている
家の裏に広がる鬱蒼とした森の中に、呆然と立つ男の姿があった

その男は、出で立ちも雰囲気も周囲から浮いて見え
まるでそこに存在している事が間違っているような違和感があった

不思議な男
なのに、が警戒心を抱く事はなかった
気がつけば、引き寄せられるように男へ歩み寄っていた

訝しげな顔で近付くを、男は見守っている
男の隣に到着したは、おずおずと男を見上げた
綺麗な顔立ちの、紅い瞳が印象的な男――

『貴様……、なのか?』

男が口を開き、その言葉には驚いた
初めて出会う相手なのに、何故自分を知っているのだろう

の事……知ってるの?』

恐る恐るの問いかけに、男は答えない
ただ、何かが腑に落ちたように笑った
優しさや友好的なものはほとんど含まれていない笑顔だが
綺麗だと思う

『そうか……そういう事か』

優雅に男は跪く
そっと手を包み込まれ、その恭しい仕草に頬が熱を持つ



紅い瞳

『我が愛しき同胞』

心を縛るような威厳に満ちた声

『その身に流れる血を誇れ』





長い旅もようやく一段落だ
窓の外の流れる景色を見ながら、特に何の感慨もなくは思う
目的地に到着しても、初めての土地で夜を過ごしても何も変わらない
何一つ変化する事なく、は孤独だ

隣の席に座っている筈だったクラスメイトはバスが走り出す前から、仲の良い友達の元へ行ってしまった
補助席は乗り心地が悪いだろうが、長いバスの旅をの隣で憂鬱に過ごすよりは余程快適なのだろう
だって、居心地の悪そうな態度でずっと隣に座られるよりは断絶快適だと心の中で呟いてみるが、ただの負け惜しみのように情けなく響くだけだった

とりとめのない話を延々繰り広げて盛り上がっているあの輪が羨ましいとは思わない
けれど、いくつもあるその輪のどれにも属せない自分は確かに孤独だった

を疎外するクラスメイトが悪いわけではない
勿論に非があるわけでもない

クラスメイト達は自分たちとの違いを敏感に感じ取っているのだろう
違いは、仕方がない
変わろうと思っても変われる類のものではないし、自身としてはその違いを拒絶しようとは思わない


我が愛しき同朋

その身に流れる血を誇れ


幼い頃に出会った、不思議な男の言葉

「……この身に、流れる」

――血を



その時

激しいスリップ音と共にバスが大きく揺れた
身構える暇もなく、揺れに翻弄されたは窓に叩きつけられる
それは一瞬の出来事で
何が起こったのか理解する暇も無くの意識は深い暗闇に突き落とされた





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新連載、そして初トリップ夢、そして初めてちー様が最終的なお相手です。
ヒロインが暗い感じなので、全体的に暗い話です。
個人的には、気も腕っ節も強いヒロインが好みなのですが
ちょっと暗いヒロインを書くのも結構楽しいです。

相変わらず糖度は低めかと思いますが
よろしければ、しばらくお付き合いくださいませ