願いの火
「千景さま!こっちの方が良く見えます!」
人々の間を小動物のような動きで走り
ようやく満足できる場所を見つけたらしいが風間へとおおきく手招きする
子どもの様な仕草に、風間はそっと息を吐き出した
「千景さま!」
風間が中々傍に来ない事をじれったく感じているのか
催促するようにが呼び、数人の人間が迷惑そうな視線をに向けていた
不本意ながら、今だけはその人間の気持ちに同意できる
これは、今ののようにはしゃいで見るものではない。祭りではないのだ
などと頭の中でに苦言を言っている内に、もう一度叫ぼうと大きく息を吸い込んだを見て
風間は仕方なくの傍へ向かった
「綺麗ですね」
前方の山に炎で描かれた文字
煌々と燃える炎は、の言う通り綺麗だが、それ以上に物悲しくもある
「えっと、あの文字に向かって願い事をすると叶うんですよね?」
「……、何処でそんな嘘を教わった?」
「え?違うんですか?」
あまり物を知らない女だという事は風間も承知していたし
これまでのの境遇を思えば仕方の無い事なのだが
ここまで無知だと流石に呆れる
将来伴侶になるべき女なのだから、もう少し物事を知ってもらわなければ困るのだ
きょとんとした顔では風間を見上げる
言動同様、幼さの残る顔を紅い瞳で見下ろした風間は、そっと視線を炎の文字へ移した
「あれは、死者の魂をあの世へ送り届ける為の炎だ」
「死者の……」
「……人間共の考えた、くだらぬ儀式だ」
静かに結んだ風間の言葉に、がクスリと笑う
何が可笑しいのだと風間が目を細めるが
は気にする風もなく、尚も笑っている
「千景さまは物知りですね。けど、嘘はいけません」
「嘘、だと?」
「くだらない儀式なんて、本当は思っていないのでしょう?」
ぐ、と言葉に詰まる
認めたくはないが、の言葉はまさに図星だった
「私も、くだらないなんて思いません」
「……」
「年に一度死者を迎え、そして送り出す。そうやって死者と共にあり続けようとするよ
うで……私はそんな人間が結構好きです」
暢気なのか、器が大きすぎるのか
より効果的に鬼を従わせる為、人質として人間に幽閉されていたという
不遇な幼少期を送った者の発言とは思えない
人間を憎んで当然。にもかかわらず、好きとはどういう事か
風間は呆れたため息を吐き出しながら、口を開く
「能天気にも程がある。貴様は己の過去も忘れたというのか」
思わず、咎める口調になってしまった
傷つけたかもしれない。横目でを窺う
少し肩を落としたは口元に悲しい笑みを浮かべていた
「……忘れたわけではありません。それでも、私は人間を憎みません」
「変わった鬼だな、貴様は」
「それを言うなら、こんな変わり者の鬼を傍に置く千景さまも相当な変わり者です」
「ふん。折角手に入れた女鬼だ、少々変わり者でも手放す訳にはいかん」
つい本心と裏腹な事を口にするのは、照れのせいだ
それでもは嬉しそうに笑う。安心したように胸に手を当てながら
「良かった。なら、どんな私でも千景さまは傍に置いてくれるのですね」
「全くもって貴様はお目出度い女だな」
「はい!私は幸せ者です」
風間の言葉をずれた解釈で頷く
呆れるが、見ていて飽きない
貴重な女鬼だからではなく、だから手放したくない
「」
ふ、と思ったささやかな疑問を口にする
「もしアレが願いの炎ならば、貴様は一体何を願うつもりだった?」
山に描かれた炎の文字が、の言っていた通り願いを叶えるものだったら
一体は何を願っていたのだろうか。少しだけ気になった
は一度俯き、再び風間へ顔を上げた時は薄闇でも分かる程頬を染めていた
「……千景さまの子が早く授かりますように……と」
風間は僅かに目を見開いたが、次の瞬間には意地悪な笑みと共にを引き寄せた
驚いたように小さく声を上げたの肩に手を回す
耳元に唇を寄せると、が小さく震えた
「あの……千景さま?」
「そんなものは何かに願うものではない、直接俺に請え。すぐに叶えてやろう」
恥ずかしさで、一歩後ずさりしようとするを
逃がさないように強く抱きしめた
魂を送る炎が、慎ましく京の夜空に浮かんでいた
end
送り火そっちの気でいちゃいちゃする二人。
ちー様は薄桜鬼の中でも、最もバカップルになりそうだと思うのは私の妄想ではない筈
……
ちー様は強気ヒロインも似合いますが、天然系も似合いそうです。
どっちにしろ、ちー様は振り回されそうだから。
一応ヒロイン設定としては、
かつて人間に人質として捕われ、幽閉されていた過去を持つ西国の女鬼。
ちー様や千鶴達ほど鬼の血は濃くないのかもしれません。
幽閉されていたので、結構な世間知らず。今回送り火が願い事をするイベントだと吹き
込んだのは不知火辺りでしょう。
ちー様と天然系ヒロインというのは、前に友人と妄想し合っていた時に生まれたもので
すが、書いていたら結構楽しかったです。
もしご要望があれば、また書いてみたいな。と思ってます
その時は新選組を絡めたいです