青く咲く春
「ちょっと待ってよアスラン!」
「止めないでくれ……」
「いや、止めるわよ!今アスランに抜けられたらホント困るんだって!」
「俺は役立たずだ…居たってしょうがない」
「…アスラン」
「俺は投げられない…俺は――」
キラとなんて戦えないー!ってか?
冷静な私の脳が予想した台詞を、一言一句正確に
アスランは叫んで、今にも泣きだしそうな顔を伏せた
溜息がでそうになったけど、堪えた
「キラとはいつか戦わなきゃいけないって事は、分かってたでしょ?」
違う場所から、同じ目標を目指してるんだから
「分かってたさ!分かってた…けど」
あーあ、そんな顔しないでよ
仕方ないじゃない、キラとは違う学校になっちゃったんだから
あーあ、面倒くさいなぁ
しゃーない、アレやるか
俯いたアスランには分からないよう
こっそり目頭に力を入れると、じわりと涙が滲み出た
よし、準備OK
小さく息を吸って、教室中に響かせるように叫んだ
「なら…野球なんてやめちゃえ!バカアスラン!」
顔を上げたアスランがびっくりした目で私を見る
出だしは上々
脳内の私はニヤリと笑ったけど
実際の私は、涙目でアスランを睨んだ
「私だって…うっ…キラとなんて、戦いたくないけど…でも、戦わなきゃいけないじゃない!」
ここで、両手で顔を覆った
嗚咽混じりに言葉を繋ぐ
少し大げさかもしれないけど
これ位やった方がアスランには効果があるんだ
「夢…甲子園行くって、ううっ…アスランの夢叶えるのが…私の夢だから――」
これは一応本当のこと
「だから、私だって…頑張ってるのに…」
「…」
「アスラ…はキラ、キラって!」
そこで一旦言葉を切って、泣き声だけを教室内に響かせる
ガタリと机にぶつかる音を立てながら
アスランが近づいてくるのが分かった
「うっ…うっ…」
「…」
「アスランのバカ!」
「ああ…本当にバカだよ、俺は。…ごめんな、ごめん」
アスランの手が、私の肩に乗せられる
「もう野球やめるなんて言わないから」
「キラと…戦える?」
「ああ…キラとも、戦えるから、泣かないでくれ…な?」
いつも通り作戦は無事成功
はいはいお疲れ様ーとばかりに
緩ませていた涙腺はキュッと閉まった
けれど、一応とどめの意味も含めて
「考え直してくれて嬉しい!」
と、勢い良く抱きつき、涙のべったり貼りついた顔を
アスランの胸に押しつけた
時、
ガララッ
ご近所迷惑な騒音を立てて扉が開き
反射的に目を向けた、抱き合ったままの私とアスランは
キレイな瞳を見開き、口をぽかんと開いたまま突っ立つ
イザークを発見した
「い、いやー、お恥ずかしいところをお見せしました…」
へへへと笑って頭を掻き、イザークの隣に腰を降ろす
ベンチのひんやりとした感覚は、私の体温が移ってすぐに感じなくなった
「アスランがまた野球やめるーなんて言うからさぁ」
「…だから、泣いて止めてたのか」
「正しくは、泣いて止めてる芝居ね」
「芝居…だったのか?…じゃあ抱きついていたのも――」
「芝居の一環。ちょっと大げさな方がアスランには効くから」
「…なんだ、そうなのか」
溜息を吐き出すようにそう言ったイザークの顔は
さっきまでちょっと不機嫌そうだったのが、和らいだ気がした
「昔からアスランにはアレが効くのよ」
「…大変だな、マネージャーも」
「一応、ウチのエースピッチャーですから」
そのエースピッチャーくんは
さっき野球やめるなんて騒いだのも無かった事のように
グラウンドでチームメイトに喝を入れつつ
いきいきと練習に励んでいる
野球をしてるアスランは、幼馴染の私から見ても結構カッコイイと思う
「あんな腰抜けが我が校のエースなんて、恥じだ!」
「あはは」
確かに、プレッシャーに負けては
さっきみたに、野球やめるって騒ぐしね
「マネージャー!!」
「は、はぃい!?」
突然、イザークが立ちあがったと思ったら
こっちを向いて、もの凄い目力を注いできたので
裏返った声で返事をし、青い瞳を見つめ返す
「例えアスランが居なくても…俺が、キサマを甲子えふごぉ!!」
高速の物体がイザークの横顔にめり込み
言葉を無理矢理中断させた
イザークにめり込みスピードを失った物体――ボールが足元に落ちる
「イ、イザーク!大丈夫?」
「こらー!何サボっているんだイザーク!」
どうやら、アスランが故意に投げたものらしい
腰に手を当て、怒ったような表情でこっちを見ている
「アッ…スラン…キサマー!!」
こちらも怒りを露わにしたイザークが、一瞬でアスランの元へ駆け寄り
殴り合い寸前のケンカが始まった
止めに行った方がいいかもしれないけど
ま、ディアッカやラスティ辺りがなんとかしてくれるでしょう
という予想通り、ディアッカとラスティが
必死に二人をなだめる光景を見ながら
「青春ね」
かけがえのない瞬間、というのは
きっとこういう光景をいうんだろうと、ガラにもなく思ってしまった
End
アスランがお相手のようなイザークがお相手のような夢でしたね…
野球する種キャラは一度書いてみたいネタでした!
アスランは私立ザフト学園野球部のエースピッチャー
イザークはライト、顧問はクルーゼ隊長、チアにはラクスとミーアがいます
キラが居る、アラスカ第1高校には、アズラエル教頭や
フラガ野球部顧問、ステラはマネージャー兼スパイです。