花と酒





供えた花束が微風に揺れた


いつもこの場所にくると気分が沈んで
悲しくなるけれど

形ばかりの墓場にイマイチ実感が湧かないのも事実


母の名が刻まれた石をしばらく見つめて
やけに肌寒く感じるこの場を立ち去ろうとして

向こうから歩いてくる人の気配に気付いた

一升瓶を片手にぶらぶら下げながら
向こうの人間もこちらに気付く


「あれ、アスランも来てたんだ」

「…ああ。も墓参り?」

「うん。父さんのねー」


一緒にどう?と軽く聞かれて
ついていくことにした


の両親がすでに他界している事は知っていた
父親が血のバレンタインの犠牲者だったのも

だから、墓参りに来たというまでは分るのだが

何故、酒なんだ?


の父上は、お酒が好きだったのか?」

「あんまり好きじゃなかったかな。かなり弱かったし」


じゃあ何故。言いかけた声より先に
続く言葉


「父さんは母さんが恋しくなると紛らわせる為に飲んでたみたい」


何かその時の情景でも思い出したのか
はフフっと笑う


「でもおちょこ一杯で酔っちゃって、私の事母さんの名前で呼ぶの」

「…」

「“どうして僕を残していってしまったんだ”って泣いちゃってさ」

の…母上はどうして?」

「戦死ってやつ」


暗い話題もの明るい口調と雰囲気のせいか
重い話を聞いてしまったというよりも
のおいたちを聞いているようで、不謹慎にも興味を持った

そんな気配を察したのか、単に気が向いたのか
明るい口調で話しは続く


「母さんも赤だったの。結構有名だったらしいけど」

「そうだったのか」

「そう。んで、父さんは…あ、ここだ」


の父上の墓に到着し
会話は一旦中断して

は持参のおちょこにお酒を注ぎ
墓前に供える


微風に、水面が揺れた


「父さんは花の研究者だった。争いは苦手な人だったな」


母を戦争で失って

父を一方的な攻撃で失って

も、俺がそうするように


ヤツらを、憎んでいるのだろうか



同じ兵士でありながら、の言動や行動からは
憎んでいるという感情は窺い知る事ができないから


は、地球軍を憎んでるのか?」


血のバレンタインの被害家族にとっては
誰だってイエスと答える質問を口にした

は墓を前にしゃがんだまま
少しの間、沈黙する


「…ヤツらがやった事について許すつもりは一生ない。でも」


立ちあがって、やはり明るい表情は崩さない


「私がザフトに入ったのは、そんな理由じゃないわよ」

「じゃあ…どうして」

「…そうねぇ、やっぱ母さんが恋しかったんじゃない?」


それは、母親と同じ世界で働き
少しでも母親の影に触れてみたかったということだろうか


は目の前の石にじゃあ、またねと呟いて
こちらに向き直る


「さて、帰ろう。今日はネイビーちゃんと遊ぶ約束してるんだ」


俺は黙って、その言葉に従った





End


突然シリアスモードです。もし今までのハロ話のようなノリを期待されてた方すみません。

微妙にヒロインの両親登場
アスランとはこういう、家庭の話が気軽にできそう
なんとなくそう思っただけですが…

本当はヒロインの幼少時代とか
書きたかったんですが、父母の話にはイザ―クとか出せないので
こんな形でお父さんとお母さんの話を出してみました


どうでもいい補足
ヒロインの両親は地上戦の戦場で出会いました。
たまたま激戦地に迷い込んだお父さんを
敵から守って保護したのがお母さん。それが出会い