悲しい愛の唄#1





「やぁ、よく来てくれたね」


向けられた笑顔に、必死に緊張を押し殺し
無表情の視線を返した


「こうして直接話をするのは初めてだったね」

「…はい」


震えそうな声を隠そうと、は小声で返事をした

ここに来るまで、怖くて仕方が無かった
突然の呼び出しは“あの時”を思い出した

“仲間”から向けられた銃口の鈍い光
は両手で持っていた鞄のとってを強く握り締めた

その姿を見て、彼は笑みを深める


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

「…」

「君を殺す為に呼び出したワケじゃあない」


そんな心配はしていない。

そう言いたかったが言えず、ただ息を呑んで
体を強張らせたは、逃げ出したい衝動を堪え
促されるまま彼の――現最高評議会議長の前へ腰を下ろした


「…ご用件はなんでしょうか」

「時間も無いので、単刀直入に言おう」


柔らかさを装う瞳が、まっすぐにを見る


「君に、軍に戻ってきて欲しいのだよ」

「…ぐ、軍に?」

「そう。もう一度、戦ってもらえないだろうか?プラントの為に」

「し、しかしっ」


全く予想していなかった提案

は腰を浮かせ、立ちあがろうとしたが
すぐに、ソファに座りなおした

笑みを崩さない顔から目を逸らす


「あたしは…軍にはもう…」


幸せ。
とまでは言えないが、平穏な日々を今は過ごしている
軍に戻るなど考えたことも無かった


「力を貸して欲しいんだよ、

「けれど…」

「私はね、君の力を買っているんだよ」

「あたしの力…」


探るような視線を向けたが
彼の真意をは計りかねた


「あたしに力なんて――」


無い。

と、続けようとしたの言葉は
ふいに開いたドアと明るい声に遮られた


「議長ー!…って、あれ?お客さん?」


聞き覚えのある声
しかしここに居る筈の無い声

肩をびくりと揺らし、驚いて声の方を向いたは更に驚いた


「お、お姉様…!?」


キョトンとした目で首を傾げた少女を
自分が連想した人物ではないと、一瞬後には判断した

姉ではない、が
あまりにも似ている

他人の空似?


「丁度良い所に来たね、ミーア」


相変わらずの笑みで、ミーアと呼んだ少女を手招きする

困惑の表情でミーアを見つめるの隣へ腰を下ろし


「ん?」


ともらした疑問の声と共に
大げさな程見開いた目で、ずいとに顔を近づけた

反射的には上半身を反らし、距離を保とうとする


「あなた――ラクス様にそっくり!」

「そ、そんな事…ない」


誤魔化さなければ。と咄嗟に思ったのは
アカデミーに入ってからの習慣のせいだった

ラクス・クラインの妹とバレてはいけなかった
ずっと、ずっと隠さなければならなかった


「似ているのは当たり前だよ」


その先の言葉を察したが口を開きかけたが
彼の言葉の方が一歩早かった


「彼女はラクス・クラインの妹なのだから」

「議長!」

「えー!?ラクス様って妹いるの!?」


焦った声で叫ぶ
素っ頓狂な声で更に目を見開いたミ―ア

対照的な二人の少女を同時に視界に入れた彼は
目を瞬かせ、次に小さく吹き出した


「凄い凄い!すっごい事実知っちゃった!凄いっ」


喜々として詰め寄るミーアをあえて無視し
責めるようには彼を見た


「あたしが何者かは極秘事項の筈です!それを…」

「いいんだよ、彼女には」

「…何故」

「このプラントでは、今は彼女がラクス・クラインだからさ」

「彼女が…ラクス・クライン?」


離さないとばかりに腕を掴んでしきりに話しかける
ミーアへ視線を向ける

ラクス・クライン瓜二つの顔がそこにあった

どうして新たにラクスを作るのかが、には理解できない
それを読んだように、彼は微笑む


「プラントの為さ」

「プラント…の?」

「やはりプラントには必要なのだよ」

「そんな…だからって――」


言葉の途中で口を噤んだの目の前で
彼は笑みを崩す事なく平然と会話を進める


「そうだ、話を戻そう、君に軍へ戻ってきて欲しいという件についてだが――」

?あなたって名前なの?」


明るいミーアの声は耳に届いてはいたが
届いただけで終わった

今ここに、プラントにとって必要なラクス・クラインがいる
では…本物のラクス・クラインは?


歌姫は二人もいらない。


ふいに、過去の自分の言葉が甦り
不気味に胸中で響いた


「無理にとは言わない、もちろん君の意思を尊重するよ」


優しい声で紡ぐ優しい言葉

嘘だ。とは頭の中で呟き
自分には初めから拒否権などないと感じた





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「やさしい子守唄」の続き、種デス編デス(面白くねぇよ)

2年経って少しは成長してい…るのかな?
さんが議長を疑うのは、勘が鋭いというより
疑り深いだけなのではないかと…
前作、割りと酷い目に合ってるので


アスランはもう次の次辺りには出てきますので、もう少々お待ち下さいっ