ラプンツェル





愚かだと言ってくれていいです

未練がましいと、笑ってくれていいです

あなたはもう居ないのに

あなたの一言は、あたしの心に留まり続けているんです




「キーラー!」


お腹から張り上げた大声に
肩をびくりと震わせて降り返った紫の瞳があたしを映す


…さん、どうしたんですか?」

「アスラン・ザラのトコに行くんでしょ?」

「え、ええ…」

「あたしも一緒に行く」


キラは少し目を丸くした
そーゆー顔はまだまだあどけなくて、まだまだ子供なのだと
あたしに実感させた


「アスランに…何か用でも?」

「お見舞いに」


今度は凄く怪訝そうな顔をされた

一応、アスラン・ザラとは先の大戦で面識があるんだけどね

敵だったり味方だったり
会話らしい会話は無かったけど


あたしはわざとらしくウインクをしてみせて
内緒話をするように声を潜める


「っていうのは口実で――」

「?」

「会ってみたいの、捕虜に」

「…捕虜って――」

「似てるんでしょ?フラガ少佐に」


さっと、キラの表情が強張った
そんなに似てるのか

皆がしていた、捕虜の噂
艦長は一目見て泣いたと聞いた


「会って、どうするんですか?」

「別に何もー?ただの興味本位」


眉根を寄せたキラは、ため息と共に顔の筋肉を緩め
分かりましたと小さく言った

再び背を向けたキラの後に続いて
飛び跳ねるように一歩を踏み出す

一度宙に舞った毛先が、肩の上でさらりと跳ねた




それはあたしの宝物になって

それはあたしの唯一の希望になって

今はあたしの枷になりました

優しくて、暖かくて、悲しい枷です





「え…と、あなたは――」

「やっぱり忘れられてる」


明らかに戸惑っている風なアスランから
隣のキラへ顔を向ける

キラは苦笑する

苦笑するだけで、なんのフォローもしてくれないので
名前と、先の大戦では本当に色々な意味でお世話になりましたと伝えた

余計に戸惑ってしまったアスランは
ひとまず放っておき

ちらり…と、あたし的にはさりげなく
顔だけ動かし背後の人物を盗みみる


「んん…?」


思いきり目が合って、妙な声も出されたけれど
気にせず、顔を元の位置に戻しキラに身を寄せる


「ホント、似てる」


その人は想像以上だった
艦長達が驚いたのも無理はない

わずかに心拍数が上がる


「…」


あたしのコメントに対するキラからの返答はない
代わりに背後から


「ここは女の子が多くていいなぁ」


酷く聞き覚えのある声がして
あたしは一拍置いてから、体ごとゆっくり降り返って
しっかり顔を見る

見れば見る程同じ顔

でも、あなたとは違う人でしょう?


「あなたの艦は違ったの?」

「いたことにゃいたけど、君みたいな美人は居なかったよ」


ナンパかい


「お世辞、上手いのね」

「お世辞じゃないない」

「あっそ」

「それに、長くて綺麗な髪の子って俺のタイプなんだよねー」



『長くて綺麗な髪の子って俺のタイプだったのに』



大きく高鳴った心臓の音は隠せても
ぴくりと反応した指は隠しきれなかった


さん…?」


隣にいるハズのキラの声がやけに遠くに感じる
痺れる指先を隠すように、手をぎゅっと握って立ちあがる


「…失礼するわ」


「俺、なんか悪い事言っちゃった?」


やや戸惑った捕虜の声を背に
なるべく平静を装ったまま部屋を出る



ドアのすぐ横の壁に背を預ける
天井を見上げた顔に従って、口がだらしなく開く


まいったなぁ…


さん」


今あたしが通ったドアから、キラが現れた
心配そうな…というより、苦しそうな表情


「大丈夫ですか?」

「大丈夫ー…じゃ、ないかな」


あたしの痛みを同じように感じているような顔に微笑みかける
思いの外、力の無い笑みになってしまった


「びっくりした…ホントにびっくりした」


『長くて綺麗な髪の子って俺のタイプだったのに』


「同じ顔と声した人に、同じ事…言われるなんてさ」





ちゃん!なんで髪切っちゃったの!?』


準備もそこそこ、攻めたてられながら
戦闘の旅にでたアークエンジェル一行

比喩なんかじゃなく、本当に目を回しながら
右へ左へ艦を駆けまわるあたしに
長く伸ばした髪を気にする余裕なんか皆無で
そもそも、「気がついたら結構伸びてましたね」程度でしか
伸ばしていなかった髪だしと
思いきりばっさりやったあたしの頭を見
すっとんきょうな声をあげたのは

フラガ少佐


『なんで!?』

『いやー、邪魔だったので』

『えー!勿体無い』

『…そうですか?』

『だって、キレーだったじゃない』

『え…』

『長くて綺麗な髪の子って俺のタイプだったのに』


その時、あたしは恋をした
次の瞬間には、叶わない事を自覚していた

それでも、その一言はあたしの中に留まって
いつまでも…いつまでも…

だからあたしは髪を伸ばし続けた





あたしの顔が好きだと言って笑った彼の顔が
目の前に浮かんで、すぐ消え
代わりに、さっきより近くなったキラの顔が視界に広がった

キラの右腕が持ちあがり
頭の上に右腕の重みがのしかかる


「…いちおー、年上なんですけど」


小さな子供を慰めるように
優しく頭をなでてくるキラを睨み上げ、不満を漏らす


「すみません。…でも、今のさん年上に見えなくて」

「それ、どーゆー意味?」


キラは笑っただけで答えなかった

…キラの手は暖かい

彼の手も、こんなに暖かかったのだろうか?
今はもう…ううん、昔だってあたしはそれを感じる事ができない

ぼんやり考えて、涙が染み出してきたから
目の前にあったキラの胸に顔を押し付け泣いた

驚いたように離れたキラの手が再び頭に戻り
あたしの長い髪の上を滑った




愚かだと言ってくれていいです

未練がましいと、笑ってくれていいです

あなたはもう居ないのに

あなたの一言は、あたしの心に留まり続けているんです

いつまでも、いつまでも





End




種デスネタデス

初めは、ネオ夢のようなフラガ夢だったのですが
書き終わってみると、フラガ夢のようなキラ夢になってしまいました…

この頃はまだ、ネオの正体が分かっていなかったので
ヒロインはネオとフラガは別人物だと思っております
…という、設定です