天使と歌声





「ラ…ララ…ラ…」


メロディと共に、大小の空気の泡玉が
口から漏れだし水面を目指す


「ラ…ララ…」


上へ行くほど薄まる青

いつもは綺麗な光がさし込んでくるけれど
今日は光はない


「ララ…」


それでも私は、いつも通り歌声を
水中に響かせる


ふよふよと水面を目指す泡玉が
何かにぶつかって弾けた

何か、がゆっくりと降りてくる

私は歌うのを止めて、それをじっと見つめた

すらりと細い体
金色の髪


あれは、


「天使…?」


座り込んでいた底から腰を浮かせ
両腕を差し出す

ゆっくりゆっくり降りてきた天使は
差し出した私の手に、ふわりと体を預けた

綺麗な顔

おばあちゃんが言っていた通りだ


柔らかそうな金の髪
瞳は、どんな色なんだろう?

今は固く閉じられていて分からない

でもきっと、綺麗なんだ


「こんにちわ、天使さん」


若干開かれた天使の口からは声も、空気すら漏れ出さない


「私は、天使さんのお名前は?」


返答を待ってみたけど
返事はない


「あ、そうか。天使さんは天使だから名前なんてないのね」


私は納得して、次にふわりと水中に揺れる
金の髪に触れた


「キレイ…お日さまみたい」


時々、水面から顔を出して
水中より鮮やかな青い空を仰ぐ

きらきら光る太陽は高すぎて、遠すぎて届かない

指をさし入れて、髪を梳いてみると
柔らかい手触りに驚いた


天使は全てが綺麗なものからできているんだよ。

おばあちゃんの言葉を思い出す。



お日さまのような金の髪

磨かれた小石のような白い肌

瞳は…


「早く目を開けてくれないかなぁ」


しっかり閉じた天使の瞼に呟いてみる


「…歌を聞いたら開けてくれるかな」


思いついた私は、小さく空気を取り込んで
メロディを紡ぎ出す


「ラ…ララ……」


腕に天使を確かめながら
いつも通りメロディと共に口から漏れ出し水面を目指す
大小の泡玉を見上げながら


「ララ…ラ…」


歌詞もない、誰の為でもないメロディを
天使の為に、私は歌う




「ラ…ララ…ラ…」


湖の底から、歌声が聞こえた気がして
俺は俯けていた顔を上げた


「ララ…ララ…」


空耳なんかじゃなく、確かに歌声がする

透明な声
悲しみを知らない声

綺麗なメロディ


「天使…」


無意識に呟いた言葉に、自分自身が一番納得する


ああ、そうか


「天使が…いるんだ」


悲しみを奪うように
天使が歌っている





End




天使と出会った水中の少女と、天使の歌声を聞いた少年

副タイトル付けるならこんな感じでしょうか?

金の髪の天使はステラ
最後の“俺”はシンです(言わないと分からない)

ステラが湖に葬られた時のお話です。
もし、こんな感じだったら、ステラも寂しくないかな…なんて

夢と言えるかも分からない話ですが
こういう話しは書くのも読むのも好きです