となり





アスランの隣で笑うはいつも幸せそうだった

僕にはまだ分からない恋を二人は知っていた

の隣はアスラン

アスランの隣は

僕はその傍で二人を見守る

それが唯一で絶対の構図だと思っていた


『こっちはこっちで元気にやるから、心配しないで』

『ああ…』

『向こうに行っても元気でね』

『…――』

『さよなら。アスラン』


別れの日も、はいつものように笑っていた

泣き出しそうな僕の隣で

泣き出しそうなアスランの向かいで


さよなら。ともう一度言って、は笑った





艦の中で一番開けた空間のここは結構嫌いじゃない
慣性に身を任せて、飛ぶように上昇する


目的の人を見つけて、辺りに浮遊している機材を掴んで一旦停止し

今度はまっすぐ前進する


「――ここと、ここと…あとここだけど」

「あーハイハイ」

「任せてもいいか?」

「もちろん。その為に私はここにいるんでしょ」

「…そうだな。じゃ、任せるよ

「任せなさい」


顔を寄せ合ってしていた相談が終わったらしく
もう一度「頼む」と念を押したアスランがから離れていく

少し間を置いてから、と小さく呼びかけた


「あ、キラ」


こちらに気付いたの前まで行き、開いたジャスティスの胸部に手をかけて止まる
そこはさっきまでアスランがいた位置


「また整備の頼みごと?」

「そう。思いっきり戦ってくれるから、整備士は大変よ」

「…それって僕にも言ってる?」

「自由に受けとって」


そう言って、はいたずらっぽく笑う
歯を少しだけ見せて楽しげに笑う姿は決して不快ではない

ひとしきり笑うと、ふと思いついたように笑みを閉じる


「キラ、何か用事?」

「え?あ、うん…」


思わず言葉を濁す

用事という程ではない

わざわざここまで来て、聞くべきことでもないかもしれない


でも、来てしまった


「あの、さ…は…」

「うん?」


ごくりと唾を飲み下して、口を開く


「アスランの事、どう思ってるの?」

「どうって…味方になってくれて心強いなって」

「そ、そうじゃなくて!」


思わず大きな声を出すと、は驚いて目を丸くした
の顔から目を逸らして心を落ちつかせる


「そうじゃなくてさ…」


アスランがザフトを離れて、僕らの元に来て

再会した二人の関係はただの幼馴染

それ以上でもそれ以下でもなく


「再会できたんだから、昔みたいに――」

「それは、ありえないわ」


あまりにも透き通った声に、逸らしていた目をに向ける


「もう元通りにはならないの…なりたいとも、思わない」

「なんで?」

「…なんでだろうね」


悲しげに響くの声

一度瞳を伏せて、次に僕を見た瞳は優しくて


唐突に
別れの日、が2度目に言った「さよなら」の本当の意味に気付いた


今更、あの時にとアスランの恋が終わっていたという事実を知った


高鳴った胸が一度、大きく身体を揺らして
咄嗟に伸びた手はの腕を掴むと、ぎこちなく引き寄せる

たいした覚悟もなく、感情がそうさせて
そんな自分に戸惑う
それよりもはもっと戸惑っているんだろうけど


「キ、キラ?」


動揺した声を無視して、抱きしめる手に力を込める


「なら、いいんだよね?」

「え――」

「僕がの隣にいてもいいんだよね?」


の口がイエスと動くのかノーと動くのか
そんなことは今はどうでもよかった

何も答えてくれなくてもいい


ただ、を包むこの手を離して
の顔を正面に見据えた時

その顔が微笑んでくれていれば、と思う


あの頃のように、幸せそうに





End




「キラ夢で、シリアス。アスランの元カノ設定」というリクを頂戴し
書かせてもらいました!

由貴様4000hitリク、本当にありがとうございました。

アスラン元カノ設定はさらりと流すべきなのか…と悩みましたが
書けば書くほど、話の核になっていってしまいました。

こ、こんなブツで宜しいでしょうか??

まぁええわ、許したろ。と思って頂ければ幸いです