うるさい子にはお仕置きを
「キラァア!」
「なっ何!?」
部屋に飛び込んで
ベッドに横になって一人物思いに耽るキラの上へ飛び乗ると
両手で軍服の襟を掴み、キラの体を5cmばかり持ち上げた
ぱちぱち目を瞬かせるキラの大きな瞳には
不機嫌極まりないあたしの顔が映ってる
「今すぐ…」
あたしは地の底から湧きあがるような声を出す
「今すぐ、あのピンクのお姫様をザフトに返せー!」
「え、ええ!?ちょ…どういう事?」
混乱顔のキラの軍服から手を離す
かかる重力のままに、キラの頭が枕に沈んだ
キラに乗った状態のまま、あたしは拳を握り締めて
胸の前で震わせる
「あのお姫様…うるさくて眠れないのよ!」
睡眠時間は最も貴重で
次の仕事を確実にこなす為の大切な作業なのに…!
隣の部屋からプラントの歌姫様の
それはそれは麗しい(嫌味)歌声がして、眠れたもんじゃない
「だから、あたしの為にひいてはアークエンジェルの為にも、か・え・し・て・き・て!」
拳を開いて、キラの頭の両側に叩きつける
ふいに、両手首を掴まれた
「…そうだね」
「…!?」
掴む手に力が入り、あたしの手はキラの力でシーツから離れた
そのまま、腹筋を使い上体を起こすキラに合わせ
前かがみになっていたあたしの上半身が後ろに反らされる
あれ?なんかヤバイ?
心の中で、冷や汗が流れる
「うるさい子は、ザフトにあげてしまおう」
完全に上半身を起こしたキラが
至近距離で邪悪な笑みを浮かべた
ストライクと、赤い機体のイージスは一定の距離を保って
真っ暗な宇宙で停止した
お互いのコックピットが開き
四六時中平和の歌を歌う、近所迷惑な歌姫は
無事ザフト兵の元へ返された
イージスのパイロットは、更にキラにもこちらへ来るよう
説得していたが、キラは力なく首を振った
「僕は…いけない…けど」
と、一旦言葉を切り
コックピットの後ろに振り返った
「…」
「すいませんでしたこれからは大人しくしますんで許してください」
一息に言ったあたしの謝罪を
今更遅いよと鼻で笑って、宇宙服の上から手足を縛られ
身動きのとれないあたしの体を引きづり出した
「僕の代わりに、この子を貰ってアスラン」
「キャー嫌だぁあ!」
精一杯抵抗を試みるも、相手はキラ
手足の自由も利かないので、敵う筈もなく
「、さよなら」
悲しそうな声を出す癖に、ちっとも悲しそうな顔をしないキラに
力一杯宇宙へ放り出された
「嫌だぁあーー!」
若干の放物線を描き
素晴らしいコントロールで、あたしはイージスのコックピットまで飛んだ
アスランと呼ばれたイージスのパイロットが
両手で受けとめ、あたしの顔をじっと見る
「アスラン、その子好きにしていいから」
「な、なに言っちゃってんのキラ!」
「好きに…」
呟いたアスランが、段々と目を輝かせ
とても爽やかな笑みを遠くのキラに向けた
「あぁ、分かった!ありがとうキラ」
「なにお礼言っちゃってんのあなた!」
「じゃあ元気で、アスラン、ラクス…ついでに」
「ついでかよ!」
渾身のツッコミを無視するように、ストライクの
コックピットは閉じた
「じゃあ、俺達も行くか」
そして、あたしは何故かアスランの膝に乗せられた
コックピットの後ろに追いやられたお姫様が、あたしの宇宙服を引っ張り
「と一緒で、わたくし嬉しいですわ」
にこやかに笑ってから、歌い出した
「だから、うるさいっつーの!」
アスランはアスランで
思いがけなく素晴らしいプレゼントを貰ったと
隊長らしい人に報告していた
教訓:キラを怒らせてはいけない
今更遅いけれど…
End
キラはヒロインの事が嫌いなのではなく
カッとなってアスランにあげてしまっただけです…
どっちにしろ、酷い話ですね(他人事かよ!)