やさしい子守唄#1
渡された銃を受け取り、当てずっぽうに撃ってくる仲間に応酬する
…いや、元仲間か
図らずも裏切り者になってしまった身を笑おうとしたアスランは
元仲間の兵士達とは全く別の方向でした物音に反応し
咄嗟に銃を向けた
誰だ!?
そう叫ぼうとし、自分が銃を向けたのは少女だと気づき
喉まで出かかった言葉を飲んだ
向けられた銃口をおびえた瞳で見つめた少女は
一歩後ずさる
「あ…あたしは――」
瞳に溜まっていた涙が頬を伝う
「あたしはっ関係ない!」
少女の言葉の意味が分からず
眉を寄せたアスランは
少女の赤い軍服の袖に、それより濃い赤が染みているのを発見した
「…どうしたんだ…その傷…」
その声に反応したらしい少女は
ようやく銃口から目を離し、アスランの顔を見て
驚いたように目を見開く
「アスラン…ザラ?」
青い瞳に再び涙を溢れさせ
退けていた体を、一歩アスランに近づける
「アスラン・ザラ…」
もう一度アスランの名を口にした少女は
傷ついた右腕を伸ばそうとした
「お願い…助けて」
無意識に、アスランが銃を下ろした
同時に、少女の赤い髪が揺れ、すがるような青磁の瞳が閉じ
全身の力が抜けたように崩れた
地面に跪いた少女を、素早く駆け寄ったアスランが受けとめる
少女の頬に貼りついていた涙が
アスランの軍服に染み込んだ
「よしっ行きますよアスランさん!…って、誰です?その子は」
ダコスタの素っ頓狂な声に
「いや…分からない」
小さな声で返したアスランの後、更にダコスタは声を挙げた
「あっ!?」
「な、何だ!?」
驚いたアスランはダコスタを見たが
ダコスタはアスランの腕に抱かれた少女を見ていた
「帰ってきてたのか…」
「?」
「アスランさん!その人も連れて早く乗って下さい!」
ダコスタの声と手に急かされ、気を失った少女を抱えたまま
アスランは車に乗り込む
と、同時に銃弾が車に襲いかかった
銃弾は全て、少女がやって来た方向からだった
どうしてあっちから…
疑問に思ったアスランとは対照的に
ダコスタは分かっていた事のように、疑問や動揺を見せない
「あの…」
小さな声でアスランは話しかける
「この子の事、知っているのか?」
「ええ、まぁ、知っているというか…直接の面識はないんですが…」
「?」
「なんていうか、説明すると長くなるのでまた後で!」
「はぁ…」
ぴしゃりと会話を打ち切られたアスランは
すぐに引き下がり、顔を俯けて
しっかり抱きしめた少女の顔を見つめる
きっちりと瞼を閉じた少女の顔は、見覚えのあるような気がした
しかし、記憶の中の誰とも結びつかない
それよりも
少女の腕の傷
少女の来た方向から襲ってきた銃弾
『助けて』
少女の言葉を思い出したアスランは
「まさか…」
一人呟きを漏らす
もしかすると、この少女も自分と同じなのかもしれない
手を伸ばしたところで
それを優しく受けとめてくれる手が無い事は知っていた
無駄だと感じながらも
薄く開いた意識の中で
それでもはゆるゆると左腕を漂わせた
不意に、左手が何かに当たり
それが暖かい人の手だと認知する
暖かい手はの手をそっと包み
それに導かれるように、の意識と視界はクリアになっていった
「…あ」
握られた自分の手
自分の手を握る人物の顔と視線を移動させた
視線の先のアスランが優しく笑いかける
「良かった。このまま目を覚まさないんじゃないかって心配したよ」
「あたし…生きてる?」
「あぁ、ちゃんと足、付いてるだろ?」
「うん。ちゃんと付いてる…」
真面目に答えたに
たまらずアスランは吹き出した
「どうしたの?」
キョトンと、不思議そうには首を傾げ
なんでもない。と返しながら、アスランはまた少し笑った
ふいに、何かを思い出したようにが顔を伏せる
「…ありがとう」
「ん?」
「助けてくれて」
「当たり前の事を、しただけだよ」
「…それと」
途中で言い淀み
ちらりとアスランを横目で見たの頬は
心なしか赤かった
「手…」
「手?」
「握ってくれて…ありがとう」
「…あ」
今更ながら、女の子の手を握っていた事に気づいたらしい
アスランは反射的に手を離そうとする仕草をみせて
それも変だと思ったのか、結局手は握ったままにして
「…どういたしまして」
照れ隠しのような力無い笑みを見せた
「そうだ、君が目覚めたこと、皆に言いに行かないと…」
ようやくその考えに至ったのか
慣れないこの場の雰囲気から抜け出したかったのか
そう提案し、椅子から立ちあがったアスランは
怪訝な目を向けたに気づき、動きを止めた
「…みんな?」
「ああ、皆だけど…」
皆?
ザフト?
その単語が出てきた瞬間、体が強張るのを感じた
湧きあがってきた不安を
瞳で訴えかけたのとタイミングを合わせるように扉が開き
アスランと共に部屋に足を踏み入れた人物を見たは
目を見開き、更に全身を硬直させた
「あ…」
「目が覚めたのですね」
柔らかい物腰とわずかに覗かせた笑顔に
見開かれたの目が段々と鋭さを増していった
「どうして」
もう一度繰り返した声に敵意を混ぜて
桃色の髪をひとつに纏め上げた少女に寄越した
握った手を通して何かが伝わったのか
アスランがこちらを見ていたが
どんな表情なのか
手を繋いでいることさえ、の思考からは消えていた
「どうしてここにいるの!?ラクス・クライン」
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新連載です。
アスランメインで、本編のかなり後半…
もう終わりかけの部分です。
種小説(5巻)で話の流れを思い出しながら書いていますが
かなり捏造夢になりそうです…コレ
本編沿いみたいな捏造夢
でも、書くの楽しいです