やさしい子守唄#10





その光景を見て
違和感の正体を、全て察した

けれど、腹立たしいと思うことはなく
そうだったのかと、静かに納得した

むしろ姉が涙を流す姿に驚き
は一瞬言葉を詰まらせた


「お、お姉様…」


なんとか呼びかけた声に、涙を瞳に溜めたラクスと
傍で優しくラクスに語り掛けていた見知らぬ少年がこちらを向く


「あの…」

「何年振りでしょうか」

「え?」

「あなたにお姉様と呼ばれるのは」


溜めた涙はそのままで
本当に嬉しそうに微笑んだラクス

急に照れくさくなったは、心持ち視線を下げた


「あ、あの…あたし」


何から話せばいいか分からない

本当の事を言えばいいだけだと、心に呟き
ゆっくりと口を開いた





「…あれ?」


がラクスの元へ行き
特に何の目的もなくぶらぶらさ迷っていたアスランが
見知ったパイロットスーツと、それを着込んだ二人組みを発見し
声を上げた


「イザーク!ディアッカ!」


ぼんやり佇んでいたイザークとディアッカがアスランを見


「お疲れー」


ディアッカは軽く笑って手を挙げたが
イザークの反応は薄く、すぐに前へ向き直ってしまった


「…」

「何だ」


何か言いた気にじっと二人を見つめるアスランの視線に
イザークが苛立たしそうな声を出す


「あ、いや…まだ居たんだと思って…」

「居ては悪いか」

「いや、そんな事は無いが…」


慣れているとはいえ、久々聞いたキツイ口調に
ついたじろんでしまったアスランへ
イザークはもう一度顔を向け、溜息を吐き出した


「…俺も早くプラントへ帰りたいが――」

「頼まれてんだよねー、待っててくれって」

「頼まれた?誰に?」


きょとんと丸くした目を向けると
イザークは、誰かを説明しようと口を開けたが
名前が分からないらしく、頭上へ青い瞳を向け
さき程会った時の記憶を辿っているようだった


「あー…女、だ。赤くて長い髪の…」

「ちょっとラクス・クラインに似てたよねー」

「…!?」

「という名前なのか?」


聞き返したイザークには答えず

どうしてがそんな頼み事をしたのか
という疑問がアスランの胸を占めた


「す、すいません。お待たせしました」


タイミングを合わせるように
アスランの背後での声が響き

やっと来たかと言わんばかりのイザークの目とは対照的に
アスランは困惑した目でを見る

アスランに気づいたは、アスランの前で足を止めた


「…話してきたよ。少しだけど、あたしの気持ちも伝えた」

「それは良かった…いや、今はそれよりも

「何?」

「どうして、イザーク達を引きとめたんだ?」

「…あのね」


一旦言葉を切り、申し訳なさそうな瞳でアスランを見た


「あたし、プラントに帰ろうと思って」

「プラントに帰る?」


でも、と付け足しアスランは口篭もる

にとってプラントは辛い場所ではないのか
仲間に銃を向けられた場所

それに、プラントへ帰っても迎えてくれる家族はもう居ない

いや、それよりも


「確かに、プラントに帰るのはちょっと怖い…よ?」


黙ったアスランの代わりに、が口を開く


「でも、あたしが居られる場所はあそこしかないから…」


イザークもディアッカもを見
静かに話を聞いていた


「…プラント以外でも、君が居られる場所はある…」


力強く言おうとしたが、ようやく搾り出した声は
頼りないものだった

しかし、アスランは全身の力を集結し
の青磁の瞳を見つめた


「一緒に…オーブへ行かないか?」


真剣な視線から逃れるように、は瞳を伏せる


「…同じ事、お姉様からも言われたわ」


そして、ラクスの申し出も断ったのか
ラクスも同じように落胆したんだなと、ぼんやりアスランは思う


「ありがとう、アスラン。でもあたし帰らなきゃ…気になる事もあるし」

「気になる事?」


疑問に、はこくんと頷いただけで何も言わなかった
伏せた目を上げ、はイザークに顔を向ける


「もういいのか?」


視線を受けたイザークが確認し、がはいと答える
引きとめようと伸ばしかけた手をおさえ
名残惜しそうにを見た


「アスラン」


イザークの元へ行きかけたが見つめ返し、呟いた


「あたし…もっと強くなる、から…そして、アスランに会いに行く…」


若干赤に染まった頬へ向け
一瞬意外そうな表情を見せたが、すぐに笑みに変え頷いた


「あぁ…分かった」




に続き、コックピットに乗り込もうとしたイザークへ
くれぐれもを頼むと繰り返すアスラン

分かっていると何度も同じ返答をするイザークから
ようやく、俺に任せろという言葉を引き出したアスランは
ほんの少し、安心した面持ちでを見た

悲しそうに見つめ返すの顔を、閉じていく胸部が隠した


結局、が笑うところを見られなった
ロケットも返せず仕舞い

そういえば、約束したハロさえ作ってあげていない

情けなくて、笑いが込み上げてきた

焦る必要は無いのだと、アスランは思う
とはまたいつか会える、変な確信があった

またいつか会える

その時に、渡せばいい
その時に、満面の笑顔が見られればいい

珍しく前向きなアスランは、人知れず“いつか”を想った





End





凄く爽やかに終わってしまいました…

「やさしい子守唄」は今回でめでたく最終回を迎えました。
ここで一旦区切りを入れて、次回からは短編を挟んでから
今度は種デスの本編沿いに連載していきたいと思います。(続くんかい)

なので、中途半端な感じの最終回になっちゃいました
アスラン、ハロ作ってないし
ロケットも返してません(実は私が返すシーンを書き忘れてただけ…)
ラクスとの和解も完全にはできていないと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
是非、次回もよろしくお願いします!