夏の予選まであと2週間。
日が長くなってきたといえども、20時を過ぎるとさすがに辺りは暗くなってくる。
だが、彼はそんなことはお構い無しといった風に、唯、我武者羅に汗と泥に塗れながらピッチングの練習をしていた。
何度も、何度も・・・。
手はとうに限界を迎えているのであろうが、彼はひたすら球を投げ続けた。
そんな彼の姿に惹き付けられた―――
トキメキ☆
「子津くん、はいっ!今日もお疲れ様v」
「あっ、先輩・・」
体育館裏でこっそりと特別メニューに励む子津に
野球部の2年マネージャー・がドリンクとタオルを、とびきりの笑顔つきで差し出した。
子津は、どこか気恥ずかしそうに頬を染めて「ありがとうございます・・」とそれらをから受け取った。
「先輩、帰らなくていいんすか!?もうこんなに真っ暗じゃないっすか!!」
子津がふと校舎の時計を見上げると、針は8時20分を指していた。
「だって、子津くんを待ってたんだもの。一緒に帰ろうと思って」
「へっ?僕とっすか?」
「うんv実はね、猪里くんに駅前のお好み焼きのタダ券2人分貰っちゃったから、子津くん今から行かない?」
「えっ、いいんすか?じゃぁ、お言葉に甘えるっす!」
「じゃ、今から着替えておいでよ。校門で待ってるから」
「はい!すぐ着替えてきます!!」
子津はに軽く頭を下げると、部室へ走って行ってしまった。
はというと、子津の後姿を見送りながら、ニヤリ・・と怪しい笑みを口元に湛えているのだった・・・
ふふふ・・・やったわ!!
ついに子津くんと2人きりv
私、は今夜子津くんに愛を打ち明けようと思ってるわけよ!!
ちなみに、作戦名は『お好み焼き屋でゲッ☆忠』!!
この為にわざわざ猪里くんにタダ券貰ったんだから。
・・・・・・・ここからはの回想・・・・・・・
『おーい、虎鉄!今日部活終わったら駅前のお好み焼き屋へ行かんね?オレ、丁度2人分タダ券もっとるけん』
『おっ!いいNevタダで食えるなら行くZev』
『猪里くん!!』
『わっ!!っなんねちゃん!いきなり大声なんか出して・・』
『そのタダ券、私に譲ってくれない?』
『えっ!?でも・・』
『頼むよ!キミ〜!!』
『何でいきなり上司口調なん!?』
『お願い猪里くん!私を助けると思って!!』
『それが何でちゃんを助けることになるん?』
『・・・HAHA〜Nv、お前もしかして子津を誘いたいんじゃねぇKa?』
『なんでわかったの!?』
『ああ、それで。そういえば、ちゃんは子津が好きなんっちゃね』
『何で知ってるの!!?』
『いや・・毎日あれだけ子津に熱い視線を送ってりゃ誰だってわかるっちゃ・・』
『知らないのは本人くらいだZe。子津も鈍いからNa〜』
『まぁ、事情はわかったっちゃ。仕方なかね、これはちゃんに譲るばい。頑張ってきぃ!』
『HAHA〜Nv応援してるぜv』
『ありがとう!2人とも!!私、あたって砕けてくるわ!』
『いや・・砕けちゃいけないだRo・・』
・・・・・・・の回想終わり・・・・・・・
とまぁ、こういう経緯でコレを貰ってきちゃった訳。
んで、今私たちはお好み焼き屋で向かい合って座って食べているんです。
「美味しいっすね!」
「うんvしあわせ〜vあ、私のチーズ入りブタ玉食べてみない?これも凄く美味しいよ?」
「いいんすか?じゃあ、僕の葱入り海老玉もどうっすか?」
「んじゃ、ちょっと貰うね」
「どうぞっす」
なんか、なんかこれって、恋人同士の会話っぽくない!?
子津くんが美味しそうにお好み焼きを頬張ってるのなんて見たら、
こっちが子津くんを食べたくなっちゃうわv
ああv幸せでどうにかなりそうvv
はっ!とろけている場合じゃないわ!?
すっかり忘れていたけど、私、早く告白しなくちゃ!!
何のためにここまで来たのよ!!ファイト☆
「・・先輩・・さっきからどうしたんすか?何か悩み事があるんでしたら、僕でよければ相談にのるっすよ?」
ついつい眉間に皺を寄せて考え事をしてたから、ふと正面を見ると、心配そうに私の顔を見つめる子津くん。
ぶっちゃけ可愛いねん!!もう理性も飛ぶ!
・・・・・・・ここからはの妄想・・・・・・・
『ふふv子津くん。心配してくれてありがとv私は大丈夫だから、ねv』
『よかったっす!先輩は、やっぱり笑ってた方が・・その・・可愛いっす///』
『子津くん///もうv年上をからかうものじゃないわv君のほうが可愛いわよ。ホッペにソースがついたたままだぞvちゅっv』
『///////先輩・・ありが忠〜vちゅっvvv』
『/////ね、子津くんv』
『先輩・・・好きです///////』
『わ、私も好き・・・』
『僕と、付き合ってくれますか・・?』
『はいv喜んでvv』
・・・・・・・の妄想終わり・・・・・・・
きゃ――――っ!!!!なんちゃって!なんちゃってvんもう〜〜〜vv
ダメよ子津くん!私、まだ心の準備がvv
「ぶっふ――――っっvv子津くんったらvvエフフ――vv」
「先輩・・本当に大丈夫っすか・・?(特に頭の方・・)」
はっ!?私としたことが、ついつい・・・
ちらっと、子津くんの顔を盗み見ると、まるで新種の珍獣を見るかのような目を私に向けている・・。
ヤバイ!!これじゃ告白ムードどころの騒ぎじゃないわ!?
「ええっと、その・・ねぇ・・!?」
『ねぇ・・!?』ってなんなのよ自分!!子津くんに聞いてどうするのよ!?
ああっ!さっきまでの意気込みはどうしたの!!
ええい!もうヤケクソよ!!さっさと告っちゃえ!!
「あのね、子津くん!ストレートに言うけど、私は君のことが好きです!!」
本当にストレートに言っちゃった!!
はわはわっ!!どないしよう!!
子津くんは目をパチクリとさせて驚いているし・・・
やっぱり、もうちょっと色気のある告白をすればよかったわ!!!
「嬉しいっす・・僕も・・僕も先輩が好きです・・・」
「えっ・・・」
今、子津くん何て言ったの・・?
「もし、先輩さえよければずっと僕の側にいて下さい・・」
顔を赤らめながらも、私の目を真っ直ぐに見つめる真摯な瞳に吸い込まれそうで・・
私は指一本動かせなくて・・
自分の顔が赤くなるのを感じて・・
頭がボー・・としてきて・・
涙がポロポロと止め処なく流れてきて・・
「あっあの、せ「ね゛づぐ〜〜〜〜ん゛!!!!!」
「うわっ!!?」
私は勢い良く席から立つと、子津くんの胸に飛び込んで思いっきり鼻水をシャツで拭いた。
「先輩・・」
子津くんはそんな事気にするでもなく、そっと抱きしめてくれて、髪を優しく撫でてくれていた。
「ごめんなさい子津くん・・シャツで鼻水を拭いちゃって・・・」
「別に気にしてないっすよ。洗えばいいんですし」
お好み焼き屋からの帰り道、私と子津くんは手を繋いでゆっくりと歩いた。
感極まって泣いてしまったのは正直恥ずかしい・・・
周りの人からも注目されちゃったし。
「ところで、先輩は僕なんかのどこを好きになったんすか・・?」
「僕なんかなんていうもんじゃないわよ。子津くんは何時も一生懸命で真っ直ぐで。まだまだいっぱい良いところがあるんだから!」
「ありがとうございます・・」
ふと子津くんの顔を見上げると、はにかんだ笑顔を返してくれた。
その笑顔も大好きで。
うん。やっぱり子津くんのこと好きだなぁ・・・
他愛の無い話をしながら歩いていると、いつのまにか分かれ道に差し掛かった。
「じゃぁ、私はこっちだから。今日はありがとう」
「あ、先輩。あれって何っすかね」
「あれ?」
いきなり子津くんが『あれ』なるものの方向を指で示したので、そっちの方へ顔を向けた。
ちゅっ
頬に、柔らかくて暖かい感触がした
「ね、ね、ねねねねねね子津くん!!??」
「すいませんっす。嘘をついて・・」
「い、いや!そうじゃなくて!い、いいいい今、ほ、ホッペにちゅーを!!!」
「ううっ・・あまり言わないでくださいっす・・。僕も恥ずかしいんすから・・・」
顔を真っ赤にさせて俯きながら呟いた子津くんの台詞が、ぼんやりと頭に響いた。
ああ
幸せで死んでしまいそう・・・
今夜はまさにトキメキ☆トゥナイト!だわ!!
・・・・・・・・・・おまけ・・・・・・・・・・
翌日、何故か私と子津くんが付き合いだしたことが皆にバレてるんですけど・・・。
ちらり・・と猪里くんと虎鉄くんを見ると、
猪里くんは目を逸らして、虎鉄くんは白々しい口笛を吹きだした。
こいつら・・私たちの後をつけてたわね!!?
終わり
FULL☆COURSE時代相互記念として九曜様より頂きました。
本当にありがとうございました!
『子津君でギャグ』というなんとも我侭で難しいリクをこんなに素敵に書いてくださるなんて…
これこそ私の理想の子津くんなのです
先輩というポジションも、なんともおいしい…(じゅるり)
かなり余談ですが、ヒロイン妄想のシーンはまるでそっくりそのまま写し取られたのでは!?という程
普段の私の思考に酷似していたので、初めて読んだ時はかなりビックリしました
けど、おかげでヒロインとのシンクロ率120%!!
流石九曜様です
本当にありがとうございました