09:「親友」
前編
「カガリさまぁー!!」
溢れ出す大量の涙を拭うことも忘れて
やっと、やっと会えた主人に駆け寄る
大観衆の前にも構わず
私は勢いをつけたまま、カガリ様の胸に飛び込んだ
「わ!!?」
懐かしい声が鼓膜を震わせる
懐かしい顔
懐かしい声
懐かしい匂い
両腕に力を込め
無事に帰ってきたんだということを体一杯に感じる前に
突如、伸びてきた手に襟首を掴まれ
ビリッと剥がされた
抱きしめる対象を失った腕を
じたばたと動かしながら
涙の止まらない瞳で、急激に遠くなったカガリ様を見つめた
「使用人のクセに、しゃしゃりでるんじゃないよ」
すぐ後ろで特徴的な声がしたのと
私を引っ張っていた力が消え、地面に顔面から着地したのは同時
「いてて…」
地面の固さを実感しつつ上半身を起こし
急いでカガリ様の方へ目を向けると
背の高い人物が、きつくカガリ様を抱きしめていて
私からは足しか見ることが出来なくなっていた
「逢いたかったよカガリィ…」
カガリ様の肩に顔を埋めたその人は
涙声で言った
その人はそのままカガリ様の肩を抱いて去ろうとし
カガリ様は困惑した目で専属のボディーガードを見遣り
次に私に視線をくれた
すまない。と謝る様な目
私はそれになんの返答もできず
立ちあがることもせず
ただ口を半開きにして、目から涙を垂れ流していた
「大丈夫か?」
カガリ様専属ボディーガード――アレックスさんが
そっと言い、腕を伸ばして助け起こしてくれた
「ありがとうございます、アレックスさん」
お礼を述べると、大きいサングラスの奥の目が優しく笑い
私はまた涙を溢れさせた
「ううっ、カガリ様を、守ってくださって…本当にありがとうございましたぁ」
「俺は仕事をしただけだよ…だからほら、泣かない」
言い終わり、差し出されたハンカチを
お礼と共に両手で受け取ると涙を拭い
ついでに思いっきり鼻をかんでから返すと
「それはにあげるよ」とかなり焦った声で言われた
お言葉に甘えて、そのハンカチは貰うとこにし
三度お礼を口にしかけた時
「あー!!」
悲鳴に近い叫び声が上がり
アレックスさんと二人で声の方に顔を向けた
あまり見慣れない、ザフトの赤服
それを着こんだ人物の顔は
よく見知った――
「シ、シン!?」
「!」
二人が叫んだのは同時だった
「シンと、知り合いなのか?」
「ええ、まぁ」
ちらりとアレックスさんを見
曖昧な返事を返し、またすぐにシンに目を戻した
びっくりした、こんな所でこんな風に再会するなんて
プラントに行ったのは知ってるけど
ザフトに入ってたなんて、本当に驚き…
目を見開き、全身で驚きをあらわしつつも
じわじわ再会の喜びが沸きあがってきて
自然に口許が綻び、軽い足取りでシンの元へ駆け寄った
なんとなく、私を見るシンの目が鋭くなったのは気にしなかった
「シン!久しぶりー!元気してた?…って元気そうだね」
さき程までの涙は何処へやら
懐かしい人物との再会で、私のテンションは元通り…
いや、いつも以上になっている
「ザフトに入ってたなんてね、ビックリしたけど…軍服結構似合うじゃん」
手を伸ばし、赤で包まれた体へと触れ様とした瞬間
ぺち。という鈍い音と痛みが手の甲に走り
一拍置いてから、私の手はシンの手によって
払われてしまったのだと知った
「…トコで」
「え?」
「こんなトコで…何やってんだよ、お前は!」
「何って…カガリ様のお出迎え」
「そーゆー意味じゃ無くて!ってかなんだよカガリ“様”てのは!?」
「あ、私ね今カガリ様にお仕えしてるの!」
ちょっと得意げにピースをして見せると
すぐさま罵倒が返ってきた
「お前バカか?」
「なっ、なんでバカなのよ!?」
「アスハのせいで俺達の家族は殺されたんだぞ!」
「はぁ?なんでそうなるワケぇ?アスハは…カガリ様は――」
今にも掴みかかりそうな私を
!と叫び、背後からアレックスさんが止める
シンの方はシンの方で
黒い軍服の人が懸命になだめていた
軍服と同じ位赤いシンの目が力一杯に私を睨む
私も負けない位睨み返す
鼻がくっつく程の至近距離で睨み合い
「「ふん!」」
同じタイミングで、一斉にソッポを向いた
Next
本編が終了し、ようやくシンネタが思いつきました。
カガリ&アスランがミネルバでオーブに帰ってきた時
シン達も艦から降りてアスラン&カガリ&ユウナのやりとりを
見ていると思い込んでいたのですが
先程確認すると、降りていたのは艦長とアーサーだけでした…
完全な本編沿いにすると、この話が成立しなくなっちゃうので
シンだけでも、艦を降りてもらうことにしました
そんなこんなで後編も、もりもり捏造しています!(威張るな)