悲しい愛の唄#2
「おじゃましまーす!」
開いた扉から、部屋の主よりも先に
部屋の中に飛び込んでいった、姉と瓜二つの後姿を見
は溜息をついた
軍に戻って欲しいという提案に、考えさせて欲しいと告げて
とりあえず返事を先延ばしにしたまでは良かったが
『のお家に行ってみたい』
というミーアの一言で、一難去ってまた一難という
心境になった
もっとも、一難は去っておらず
一難の上に一難が上乗せされただけだが…
ミーアが申し出た時、は内心彼が反対するかと期待したが
彼は少し考える素振りを見せただけで、すぐに許可した
姉の名を騙る人間を殺す可能性だってある
そう脅してみようかとも考えたが、却下した
「わぁ、本が沢山!」
「あっミーア、ちょっと待って!」
本の散らばるベッド周辺を物珍し気に見まわるミーアを
慌てて呼びとめる
調べものをしながら眠ってしまったままの状態の部屋から
リビングとキッチンが一つになっている隣の部屋へ追い出し
は素早く本を拾い集める
その間もミーアは、テーブルの上に飾られた薔薇や
ビン詰めの紅茶の葉を観察しては楽しんでいた
「ねぇねぇ、写真とか無いの?」
「…写真?」
「そう、小さい頃のとかラクス様の」
ようやく入室を許可されたミーアがベッドに腰掛け
小さな本棚を見ながら質問する
二人分のお茶を用意してきたは
考えを巡らせ、答えを出した
「ここには…無い。昔のは全部家にあるから」
「家?」
「昔住んでた…クラインの」
「そうなんだー、残念」
四角いクッションを抱きしめ、本当に残念そうな声のミーア
「小さい頃のラクス様を知ったら、もっと本物っぽくなれると思ったのになぁ」
隣に腰を下ろしたは
口に近づけていたカップを止める
「…どうして」
「え?」
「どうして、ラクス・クラインなんかに…」
こんな台詞を自分が言うのも不思議な気がしたが
「プラントの為。プラントにはやっぱりラクス様が必要だから…」
に顔を向け、ミーアはにっこり笑う
「ってのは建前で、本当はラクス様に憧れてたからかな?」
「…」
「ラクス様のように歌で誰かを幸せにできたら、素敵じゃない?」
言い終わった後、姉と瓜二つの声で
一章節だけラクス・クラインの歌を口ずさむ
「…似てる…」
「ホント!?に言われたら自信付く!」
花が咲いたように顔を綻ばせたミーアから
は複雑な表情を背けた
結局、ミーアに押しきられる形で
宿泊を許可してしまった
貸し与えたパジャマを着込んだミーアは
当然のように、ベッドの端へ転がりを手招いた
「…二人で寝るには狭すぎるよ」
「大丈夫、大丈夫だってー」
「…」
「、早く早く」
マットレスをポンポン叩かれ
渋々ミーアの隣で横になった
まるで昔に戻ったようだと、は思う
「ねぇ、ラクス様ともこうやって一緒に寝てたの?」
今まさに考えていた事の質問をされ
無意味にドキリとする
「いつも…じゃないけど」
間近にあるミーアの桃色の髪を見つめながら
ぼんやり昔を思い出す
じんわり体を支配してゆく眠気が、警戒心を解いていくようだった
「…眠れない時は、よくお姉様の部屋に行って歌を唄ってもらった…」
「歌を?どんな?」
「子守唄」
「子守唄…」
くるりと瞳を上に向け、ミーアはどんな子守唄なのか
想像しているようだった
「ミーア…」
無意識に名を呼んでいた
こちらを向いた瞳がラクスのそれと重なる
姉であるラクスを愛していたか分からない
父でさえ、愛していたのか分からない
けれど、ラクスの歌う唄は好きだった
「唄って…欲しいな」
「歌?ラクス様の歌?」
「なんでもいい…歌って…」
少し照れた素振りを見せ、ミーアは小さな声で口ずさみ始めた
それは、ラクス・クラインの歌ではなく
柔らかな愛の唄
静かなテンポに引き摺られるように
は眠りに落ちていった
小さな寝息を立て始めたを見て、ミーアは歌を止めた
「寝ちゃった…」
顔にかかる赤い髪をどけてやり
の寝顔に微笑みかける
「…いいなぁ、こんな可愛い妹が居て。ラクス様ってホントなんでも持ってる」
一人呟き、なんだか寂しくなって
枕に顔を沈めて、ミーアの瞳を閉じた
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女の子だけの回ですね…
アスランは次回辺りに出てくる予定なので、しばしお待ちを!
一応、さんはクラインのお屋敷に住まず
ワンルームマンションのような所で、一人暮らし中です。
全体的には暗いお話なのですが、ミーア登場の回は
これからも少し明るめになる…予定
ミーアは明るくて好きです。