機械仕掛けの眠り姫
「イザークだけだよな、彼女いないのって」
余計なお世話だと思ったが
戦いの終わったアークエンジェル内では
今、カップル率が急上昇していた
「いつまでもザフトに居るから彼女できねーんだよ」
「出会う機会がないからな」
昔の忠誠心はどうしたんだと問いたくなるような
元・同僚の発言
しかし、二人の言い分も事実であって
そして、周りで男女が仲睦まじくしていると
出会いのチャンスも恋などできる時間も皆無だった
戦時中を少し悲しく感じるのも事実だった
そんな気持ちを絶対バラす訳にはいかないが
「で、実際どうなの?」
が
「イザークも彼女欲しいの?」
「そ、そそんなもの今の俺には必要ない!!!」
どもったのと、必要以上に語気を強めたせいで
あっさりバレた
「やっぱ欲しいよねー彼女」
俺は居ますけど。みたいな顔をするな
癪にさわる
「イザークがその気なら俺ら協力するよ?なあアスラン」
「そうだな」
アスランはあっさり頷いて
少し何かを考えるように視線を頭上に向けた後
やけにさっぱりした顔で弾んだ声を出した
「よしっ、俺が一肌脱ごう!」
「はぁ?」
一体何を脱ぐ気だ?
だいたいアスランが俺の為に何かをするなど考えられん
「俺がイザークに彼女を作ってやる」
「貴様がか…?」
「ああ、イザークにも恋人のいる幸せを味わって欲しいからな」
「アスラン…俺の為に…」
「だって俺達、仲間だろ?」
かつて見た事が無いほどの爽やかな笑顔で
キラリと歯が光る演出が似合いそうな台詞を言い放って
アスランは自室に引き籠っていった
「どーゆー風に作ってくれるか知んないけど、いい仲間持ったな!」
ディアッカに気安く背中を叩かれて
俺は、手放しに喜んでいいものか
何か裏があるのではと探るべきか悩んだ
引き蘢ったアスランは夕食時にも現れず
自室の扉にはロックを掛けて
誰の侵入も許さない体勢だった
翌日
の、昼下がり
自室で読書中の俺の元へ
隈を作った、疲れ気味のアスランが不適な笑みを抱えて
訪ねてきた
「イザーク…」
「…ずいぶんやつれたなアスラン」
「どうってことないさ、それよりお前の彼女だが」
「あ、ああ…」
「今日の午後6時に目を覚ます。俺の部屋まで迎えに行ってくれ」
どういうことだ?
問う前にアスランが続きを話しだしたので黙って聞く
今は喋る事に全力を注いでいるようだ
「いいか、絶対に目覚める前に行くんだぞ。一人で」
「わ、分かった」
「グッドラックだ、イザーク」
力のない笑みで微笑んで
ヨロヨロ部屋から出て行った
自分のベッドは使えないので
カガリとかいう女の所に行くらしい
手に持っていた本をサイドテーブルに置いて
寝転んで脇の時計を見る
今は、午後3時過ぎか
彼女、か
アスランの言い方に若干の疑問はあるが
俺にもいよいよ彼女ができるのかも…と想像すると
緊張する
はやる気持ちを抑える為に
無意味に寝返りや腹筋を繰り返している時
外で楽しそうな声がして
なんとなくそちらにも耳が働いた
「ハロハロ」
「ふふ、ピンクちゃんは本当にお散歩が好きですわね」
「ミトメタクナーイ!」
ラクス嬢とハロか
そういえばあのハロはアスランが作ったんだっけな
あ、それとフリーダムのパイロットが持ってたトリィとかいう鳥も
確かアスランが昔作って…
…
…
「まさか、な」
いくらロボット作りが得意だからって
まさかそんな
…いや、そのまさかだ
さっきのアスランのあの言い方
ほぼ丸一日引き蘢っていたアスランの行動
6時に目覚める?
くそ
もっと早くに気づくべきだった
ロボットの彼女?ふざけるな
悪質なジョークだ
もう行かないぞ
午後6時にアスランの部屋なんて行くもんか!
そうしてしばらく壁に怒りをぶつけて
時間はどんどん進み
午後6時が間近に迫った
けど、俺は絶対行かないぞ
このままアスランの部屋には行かず
食堂に行って夕食を食べてやる
部屋を出て、食堂に向かおうとして
何故だかふと、アスランの疲れきった顔を思い出した
隈のできた顔
人型を作ろうとすればどれだけ時間がかかるのか
知らないが
きっとアスランは貫徹でやり遂げたのだろう
そう思えば
俺達仲間だろ?というあの台詞は嘘では無かったのかも
という考えになる
やり方は間違っているかもしれないが
俺の為に…
「…ふん、俺は結構義理堅いんだ…」
食堂に向いていた体を180°回転させて
アスランの部屋へ向かった
多分午後6時には間に合わないかもしれないが
1分や2分なら構わないだろう
アスランの部屋の前に到着して
軽く息を吐き出す
落ち着け、落ち着け俺
どんな女が待っているのかと思うと余計緊張するので
何も考えないようにし
汗が滲む手で扉を開けると
ベッドの上で身を起こしている、艶のある髪の見た事も無い女
と
すぐ側に一人の男
フリーダムのパイロットだ
女はヤツの手を握り、澄んだ瞳でヤツを見上げ
嬉しそうに言った
「あなたが私の王子様ね」
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新しい連載が始まりました!
本編終了後で何故か全員アークエンジェルにいるという設定で
多分、イザークvsキラになる予定です。
イザーク視点は書き易い…というか
かなり楽しかったです。