昨日の敵は今日の恋#3
「ここは素敵ね」
「どこが素敵、なんだよ…」
鉄格子の向こうでシンがため息をつく
私はその顔に笑顔を送る
「素敵じゃない、シンプルだし必要最低限はきちんと揃っているし」
「あのさ、ここがどういうトコだか知ってんの?」
「牢屋、檻」
ま、まぁ、間違ってはないけど…
とモゴモゴ言って、またため息
「ため息をつくと幸せが逃げると言うわ」
「誰のせいだよ!?」
「あら、私のせい?」
「そうだよ!!」
怒鳴った声に、思わず笑みを漏らした
すぐに、何を笑っているといいたげな視線が突き刺さる
「ごめんなさい、楽しくて…つい」
「楽しい…?」
「ええ、こんなに楽しい気持ちになったのは久しぶり」
お屋敷の人達は冷たくて淡白
それを不満に思ったことはないけれど
シンのように面白い反応を示してくれる人を見ると嬉しくなる
シンは首を捻って、またまたため息を吐き出した
「…まぁ、君が満足してるならそれでいいのか、な?」
「ええ、いいのよ」
「…じゃあ、そこで大人しくしてるんだよ」
くるりと反転し、こちらに向いた背中にシン。と呼びかける
振り返った赤い瞳をじっと見つめる
「アレのこと、黙っててくれてありがとう」
“アレ”があの銃の事だとすぐに理解したらしいシンは
瞳を左右に泳がせ
言い訳するような声を出す
「べ、別に黙ってたワケじゃ…ただ報告するタイミングが無かっただけで」
「ふーん」
探るように、更に瞳を覗きこむと
本当にそれだけだから!と叫ぶように言って
再び背を向け、去っていった
「ヒマだわ」
暇
ヒマ
ひま
多分まだ、シンが去って5分も経っていない
そりゃ、歌う以外は何もする事がないお屋敷での日々も暇だったけれど
あそこには庭もあったし
それに、この鉄格子の数メートル先のどこかには
シンやレイや他のザフト兵がいっぱい
――つまり、興味のある人達がいっぱいいるのに
「そうだ」
私は誰に見せるでもなく“ひらめいた時のポーズ”をとって
誰に見せるでもなくニヤリと笑った
時は金なりと言うし
ここに居なさいと言われてその通りにしている程
私はいい子じゃないし
それに、調べたい事もある
白いバッグをごそごそ探って、取り出したポーチを更に探り
目当ての髪留めピンを見つけると
頑丈そうな鉄格子に手を掛け、鍵穴にピンを差し込んだ
懐かしいな、園でもよくこうやって園長の金庫をこじ開けて遊んでたっけ
すぐにカチャリと開錠音がして
私はそれなりに居心地の良かった鉄格子の中を出た
「――いや、最初は迷子だと思ったんだけど、追いかけってたらレイが銃つきつけてるしさー…」
「地球の歌姫もずいぶん大胆だねぇ」
「だから“地球”のじゃないんだって」
どうやら私の噂らしい
すぐ近くにある部屋―談話室だろうか?―から声がする
シンの他に、何人かのザフト兵が居るみたい
女の子の声も聞こえたし、楽しそうな雰囲気だったので
開いた入り口から顔だけだし
出来るだけ明るく、いつものように笑顔を造ってコンニチワと挨拶した
「うわぁ!」
「ひゃ!」
主にこの2つの台詞で、室内にいる全員が驚いた
「っ君!どどどうして…な、なんなん」
「そろそろ君じゃなくてって呼んでくれないかしら」
「どうしてここに居るんだ!?鍵は?」
「暇だから出てきたの。鍵はすぐ外れたわよ」
「い、いや暇だからって…」
飲み物を片手に、面白い位動揺しているシンから
ぽかんと口を開けている同年代位のザフト兵へと視線を移し
室内に一歩足を踏み入れる
「初めまして、私は。少しお話したいんだけれど、宜しいかしら」
「ちょ…不味いって!」
焦っているのはシンだけ
他の人達はまだよく状況を理解できていないのか、特に焦っている様子はない
それをいいことに、私はシンを無視する事にして話を進める
「ザフト兵って、何人くらい居るのかしら」
「何人って…」
「いっぱい!だよ」
緑の作業服の男の子が二人
状況を把握して、かといってシンのように取り乱す事なく
むしろ親し気に答えてくれた
「いっぱい…なのね」
「正確に数えた事ないし」
「そう。じゃ、あなた達の知り合いに、特殊な任務に就いている人はいるかしら?例えば地球――」
ちょっとあなた!と、咎めるような声に
私の言葉は中断された
実際声の主は怒っているようで、隣でシンがオロオロしている
声の主は、桃色のスカートから伸びる形の良い足を一歩前に踏み出す
「そんな事聞いてどうするつもり?」
「どうもしないわ。ただ知りたかったの」
「知りたがるのはいいけど、自分の立場分かってんの?ここがザフトの艦で
あなたは捕まった侵入者だって分かってる?勝手に出てきて、スパイみたいな真似して
艦長達に知れたら――」
「そ、そうだよなルナ!ルナが正しい!艦長達にバレる前に戻ろう!」
段々激しくなる、ルナと呼ばれた女の子の言葉を遮り
泣き笑いの表情のシンが、勢いよく突っ込んできて
私の腰を掴み抱えると素晴らしい速度で、皆の前から私を連れ去った
「何考えてるんだよ、全く!」
再び、鉄格子の向こうにシンを見る
怒りと呆れの混じった赤い瞳に私は笑いかける
「笑ってる場合じゃないよ…もう…自分がどんだけ危険な事してるか分かってんのか?」
「分かっているわ」
「なら…!なら、なんであんな質問…君の目的はコーディネイターの存在がどうのって
確かめに来たんだろ?」
「ええ、そう言ったわね。でもそれは嘘よ」
「そうウソ…ってウソ!?」
シンの両手が、まっすぐ縦に伸びた鉄格子を掴み
赤い瞳が零れ落ちそうな位、目を見開いた
「ウソ…ウソ…ってじゃあ――」
「もちろん全てが嘘じゃない。ほとんどは真実」
硬いベッドに腰掛け、シンの顔を見上げながら
私はまた、思いきり笑顔を造る
「でも、少なくともそれは嘘」
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作業服の色うろ覚え…
確かザフトが緑で、連合がオレンジだったような…
あ、メイリン出すの忘れていました。