やさしい子守唄#4
「こんな所にいたのか、キラ」
デッキで、一人佇むキラの背中へ声を掛ける
振り返ったキラの隣まで進み、口を開く前に
「ラクスは?」
キラに先を越され、少し間を置いてから
まずは質問に答えた
「…一人になりたいってさ」
「そう」
の事を話し終え、少し一人になりたいと言ったラクスに
気の効いた言葉の一つも言えずに
別れてきた自分は、つくづく駄目な男だと思った
にだって…
『助けて』とすがるような目で言ったを思い出し
胸が締めつけられるように痛んだ
「何かあったのアスラン?」
思いを巡らせている間に、こちらを見ていた
キラの大きな瞳を思わず見返した
意外と、勘がするどいのかもしれない
アスランは感心しつつも、どこからどう説明していいのか分からず
とりあえず、起こった出来事順に話そうと決めた
「あの子が、目覚めたんだ」
「そうなの?」
「ああ、それで彼女は…っていうんだが、彼女はラクスの…その、妹だって…」
「やっぱり、そうなんだ」
「やっぱり?」
驚いて声を挙げたアスランに
キラは握っていた金のロケットを開き、差し出し見せる
「これ、って子のだと思うんだけど」
ロケットに収められた少女の写真をじっと見つめた
「ラクス…?」
「違うよ、アスラン」
やっぱり間違えたとでも言いたげに
キラはクスリと笑う
「これはラクスじゃなくて」
「――、なのか?でも…」
髪の色が違う
の髪はもっと赤くて…
アスランの思考を読んだかのように、キラが答える
「髪は染めたんだよ、多分。僕はの起きてるトコ見たことないから分からないけど…これはだよ」
もう一度、ロケットの中の少女を観察してみる
確かに、ラクスとは瞳の色が僅かに違う
鋭く自分やラクスを見た、あの瞳と同じ色
これはなのか
ようやく納得したアスランは、次の瞬間には
自分が情けなくなって、溜息をついた
「時々俺は、お前が羨ましくなるよ」
「どうしたの?急に」
自嘲気味に笑ったアスランを
不思議そうな表情で、キラは見つめた
「俺はがラクスの妹だという事も、言われるまで気付かなかったのに」
ロケットの中の少女でさえ、と結びつけることができなかった
ラクスに気の効いた言葉を掛けられなかった
を、突き放して一人にさせてしまった
鋭い視線の中にも、すがるような側面を見せていたのに
「…お前だったら、上手くやれてたのかもな」
「…」
「俺みたいに、を余計に怒らせてしまうこともなかったんだろうな」
真面目に後悔しているアスランの隣で
キラが声を漏らして笑った
「ちょっと買被り過ぎだよ、アスラン」
少し、眠っていたらしい
再び瞼を開いたの頭は、眠ったおかげか
大分落ちつきを取り戻していた
無機質な天井を見る
アスランに会いたいと、思った
会ってどうするつもりなのか
八つ当たり同然のさっきの行動を謝りたいのか
ただ傍にいて欲しいのか
自身にもよく分からない
上半身を起こし、床に両足を付け立ち上がると
扉へ向かい、自動的に開いた扉の外へ足を踏み出した
見慣れない通路に人の気配はない
小さな部屋にいた時よりも、不安を覚えたは
引き返そうかとも考えたが、結局は心細くなる気持ちを引き摺り
向こうまで伸びる通路の導くまま、進んだ
どこに続く道なのかも分からない
このまま進んでアスランに会えるのか
誰も掴んではくれないと思っていたこの手を
包んでくれた人物を思い浮かべ
ひたすら進む
ふと、どこからか小さな歌声が聞こえた
聞き覚えのあるメロディ
遠い昔に聞いたメロディ
誘われるように声のする方へ足が勝手に動き出す
ざわつく心臓を押さえ込み、角を曲がった所で
はぴたりと足を止めた
「あ…」
声を挙げたと同時に歌声が止む
自分とは、僅かに違う色彩の瞳と目が合い
反らすこともできず
先ほどのように睨みつけることもできず
気まずい瞳で、ラクスの瞳を見つめ返した
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アスランは人の顔を見分けるのが苦手そうです(かなり偏見)
キラが見分けられたのは、髪飾りの有無から判断したんだと思います。