やさしい子守唄#3
「すみませんでした」
追いついて、横に並んだアスランに
開口一番ラクスは言った
「…え?」
「の事を、今まで黙っていて…」
「いや…」
怒る気持ちはさらさら無かった
クライン家と一部の者しか知られていない事実を
教えてもらえる程の立場に無い事はアスランは承知していた
しかし、承知も理解もできても
すぐに受け入れることができるわけではない
姉であるラクス
妹である
考えれば考えるほど、疑問が増えてくる
「あなたには、きちんとお話しなければいけませんね」
涌き出てくる疑問や複雑な気持ちを表情に滲み出していた
アスランの顔を見て、ラクスがクスリと笑った
「いや、でも…」
秘密。ではないのか?
「今更、隠す必要はありませんわ。どこにも」
秘密を打ち明けるには、あまりにも穏やかな声で
ラクスは言った
抱きしめた感覚も温もりも
体を離してしまえば、あっけなく消え去った
悲しそうに微笑む顔には何も告げず
申し訳なさそうにこちらを見下ろす顔を見た
黙っていれば、すまないと謝られそうで
相手が言葉を発する前に口を開いた
「さようなら。お父様」
謝って欲しくなんかない
謝るのなら、引きとめて欲しかった
今にも泣きそうに歪んだ父親の顔から目を離した
「…」
小さく自分を呼んだ姉に答えるように
お姉様と、同じく小さく呼ぶ
姉と呼ぶのは、これで最後になるのだろうと漠然と思った
「さようなら」
二人に背を向けると、もっと悲しみが込み上げてくるかと思ったが
実際、それ程悲しくは無かった
「…!」
背後にラクスの声が響いたが、振り向かなかった
一人は平和の為に歌い
一人は平和の為に戦う
それはただの言い訳
結局、歌姫は二人も要らない。
父がラクスやに本当の理由を語ったことは無かったが
そういう事だろうと、は結論付けていた
ラクスが歌姫になる事はどこかで納得していた
けれど
家族の元を離れ、アカデミーを卒業し
軍に入り、ずっと戦いの中に身を置いていた
皆の憧れや羨望の眼差しの中にいるラクス
一人は平和の為に歌い
一人は平和の為に戦う
一体何がそんなに違ったのだろう
自分とラクスには、どんな差があったのだろう
戦士と歌姫
この違いは、どんな差から生まれたのか
それはただの嫉妬かもしれなかった
いつからか、そんな事を考える時間が増えた
それを一番に感じたのは――
重い瞼を開くと、アスランとラクスが去った扉が視界に入った
流れた涙が乾いて、不快な頬
鈍く痛む頭
左手に視線を落として
はまた、緩みそうになる涙腺を引き締めた
あの手にどれだけ憧れたことか
それなのに、自分から突き放してしまった
「…アスラン」
掠れて、最後はほとんど出ない声で呟く
自分とラクスには、どんな差があったのだろう
それはただの嫉妬かもしれなかった
一番強く感じたのは、
アスランとラクスの婚約を聞いた時だった
思い出したは、背中からベッドへ倒れ込み
左腕で両目を隠した
感情のままに、ぬくもりも優しさも撥ね付けた
粒になって零れた涙が、髪に染み込んだ
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設定としては、ラクスとアスランが婚約するより以前からアスランを知っていて
しかもちょっと惹かれていた…というものなのですが
一体どこでアスランを知ったのかとか考え出すと、あんまりSEEDの流れ(本編で描かれてない部分が主かも)
を把握していない事に気づきました…