やさしい子守唄#2





金色のロケットにおさまっている少女は
笑うでもなく
口を閉じてただこちらを見ている

その桃色の髪も、顔も、良く知っている


けれど“彼女”ではない


無表情にこちらを見つめる青磁の瞳を見つめ返し
キラは静かにロケットを閉じた

これは、自分が持っているものではない
そう思いつつも、持ち主が目を覚まさないのでは返しようもない

しばらく手の中で楕円のロケットを弄んでいると
千切れていた鎖がするすると抜け、床に落ちた





に名を呼ばれたラクスは、強い視線を受け止め
柔らかく微笑む


「ここはわたくしの艦ですもの。居るのは当然ですわ」

「あんたの艦…?」


青磁の瞳を細め、低く唸るようにが言葉を吐き出す


「やっぱり、裏切ったのね」

「わたくしは裏切ってなど――」

「言い訳なんてしないで!」


ラクスの言葉を遮り、叫んだ後
は辛そうに顔を歪ませた


「…巻き込まないでよ…あたしは関係ない」

…」

「関係ないじゃない!クラインの名はもう捨てたんだから!」


再び瞳を鋭くさせたを見つめ返す
ラクスから、微笑みは消えていた


「クラインの名は…捨てた…?」


ぽつりと疑問を漏らしたのは、アスラン


「どういう事なんだ?捨てたって…それにラクスはこの子の名前を知って――」

「知っていますわ」


目を合わせずにラクスが答える


はわたくしの妹ですから」

「妹…!?」


驚いて見開いた目でアスランはを見たが
は下唇を噛み締めただけで、アスランを見ようとはしない


「妹…妹ってあの――」

「アスランにはお話していませんでしたが、とは血を分けた姉妹なのです」

「そんな…」

「でももう…姉妹なんかじゃない!」


何かを断ち切るようには叫び
その反動でアスランと繋がっていた手が離れたが
頭に血が昇ったは、気にする様子もなかった


「だから関係ないのに…!」


両の拳が震えた

命令だと言って、銃を向けた兵士の顔を思い出す


「あんたのせいで…あたしは殺されかけた!あんたのせいで…!」

「お、落ちつくんだ!」


アスランがラクスを隠すように二人の間に割って入り
強いの瞳を正面から受け止めた


「ラクスのせいじゃないだろう!?」

「じゃあ誰のせいだって言うの?」

「誰のせいでもない!」

「ならあたしは…何の為に殺されかけたの?」


少し強さを弱めた瞳に涙を浮かべたに答える事ができず
アスランは口を閉じた


「教えてアスラン…ラクスのせいじゃないなら、あたしは何で味方に命を狙われたの?」


アスランが答えられないことも
咄嗟にラクスを庇っただけだということも
は感じとっていた

だからこそ、余計にきつい口調でアスランを責めた


「それは…」


言い淀むアスランの背後で、ラクスがはっきりとした声で告げる


「いいのですアスラン」

「ラクス…しかし」

「やはりわたくしのせいなのです」


ねぇ、?と同意を求めるように首を傾げ
こちらを見たラクスに、変わらない鋭い視線を返す

ラクスは微笑むように溜息をついた


「…心配で様子を見にきたのですが、元気そうで安心しました」


一旦言葉を切り、ほんの少し悲しそうな目をしたラクスを
アスランは黙って見守り

そんなアスランをちらりと見た
すぐに目を反らした


「本当は色々お話したかったのですが、今はまだそんな状態ではありませんね」


言い終わると、にひとつ柔らかい笑みを寄越し
ゆっくりした動作で踵を返したラクスは部屋を後にした


「あ…」


少し焦ってアスランはラクスの後を追おうとし
一度に背を向けたが

振り返ってを見た
一瞬すがるような瞳をは見せたが
アスランは口を開きかけただけで、再び背を向けると
扉の向こうに消えた


一人きりになり、急な体のだるさを感じて
ベッドに腰掛けた

溢れ出てきた涙を拭うことをせず
ただ小さく嗚咽を漏らした





Back Next




初、姉妹設定!
最初はもっと姉妹のバトル(?)が激しかったのですが
アスランが置いてけぼりくってしまってたので
頑張って絡んでもらいました