やさしい子守唄#7





アスランは、手の平にちょこんと乗るロケットを見つめた

ロケットを開くと、にこりともしないの顔が現れる


キラから預かっていたロケットを、返しそびれた
…のではなく、故意に返さなかった

何故だろう、と自分でも思う

なんとなく、返すのをためらった


「返すのは、帰ってからでもいいよな…」


言い訳をするように独り言を呟き
すぐに、返せないかもしれないという思いがよぎった

ラクスのように前向きになろうと
生きて帰るつもりで約束をしてしまったが

この戦いは、死ぬ覚悟で挑まなければならないとアスランは考える

もし、自分が死ねば、は怒るだろうかとも思った
約束なんてしておいて、期待させるなと泣くかもしれない

けれど、たとえ自分の命がこの戦いで消えても


「君のことは、守るから…」


の居る、この艦だけは落とさせない

自然に口から出たアスランの決意を
ロケットの中のはやはり、無表情で受けとめた


自然に口から出た決意に


「何言ってるんだ俺は…」


しばらくしてから、アスランは一人で照れた





あのロケットは、どこへいったのだろう

ふと思ったが
逃げている最中に落としたのだろうと納得した

もし、あれが手元にあったら
アスランに渡したかった、とは思う

しかし、例え手元にあってもやはり渡してはいけないとも考える

自分は、ラクスではないから


鈍い振動に、は背後の壁を振り返り見た


「…」


ベッドに乗り上げ、左手を壁につける
振動が、左手を伝って体全体に響き渡る


「…闘ってる」


アスランだけでなく、この艦も

今更ながらそれを実感し
同時に湧きあがってくる何か、も感じた

家族と離れてからは、ずっと戦うことを学んできた
戦いの中に身を置いてきた

そのせいか、戦いの中にあって
何もしないで平然としていることなどできない

は右腕を見て
包帯にもう血がほとんど滲んでいないことを確認し

部屋の隅に置かれていた自分の軍服を取り上げた
赤い軍服の右袖に
濃い血の跡はもう無く、キレイに繕ってあった

クリーニングされた赤い軍服に袖を通す
慣れた着心地を確かめてから

は扉へ向かい、自動的に開いた扉の外へ足を踏み出した



戦闘中に通路をうろついている暇人はいない

は人気のない通路を進む
艦の構造はどこでも似たようなものだという
不確かな確信を元に、は進む

この艦は自分の艦だと言ったラクスの言葉を思い出す


姉でもなく
歌姫でもなく

この艦の艦長としてのラクス・クラインを目指して

赤い髪を揺らしながら、は簡素な通路を進んだ





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もの凄く今更ですが、本編終盤で起こった
アスランとカガリのアレコレは全く無かったことになってます。