前略、森の中より#4
腰程の丈に群生した木立を掻き分けながら
前を歩く人物を追いかける
「おーい、イザーク待てよ」
呼びかけてみても、止まる気配はナシ
尖った葉が服の上からでも刺さると痛いので
できれば止まって話をしたいのに
イザークはどんどん進んでいく
痛さに耐えながらも呼びかける俺は
結構チームワークに溢れてると思うんだけど
「いいのかよ、別行動なんかしても」
何か作戦を立てての別行動ならまだしも
単に仲間割れじゃ、勝てるものも勝てない
そんな俺の問いに、イザークの返答は一言
いいんだ。
「でもよぉ、…ちゃん、口だけじゃないと思うぜ?」
挑発された時はそりゃ、かなり
ムカッときたけど
俺達より実戦経験積んでるわけだし
今日のこの演習を一人で任されたのも
それだけクルーゼ隊長に買われてるって事だろうし
イザークはぴたりと止まり
ギギギと効果音でも出そうな感じでこっちに降り返り見た
「…“ちゃん”?」
反論でもしてくるのかと思ったら
突っ込むのそっちかよ
「ディアッカ、貴様は敵を“ちゃん”で呼ぶのか?」
「今は敵でもいちおーこれから同じ隊で働くんだし…」
「あんな女、ちゃんなんか付けなくていい!」
ふんっ、と鼻を鳴らして前に向き直ると
またどんどん進み始める
多分、イザークにチームワーク云々を求めるのは無理
空を隠すように生い茂る木々の割れ目から
かすかに覗く青い空にため息を吐いて
後に続きかけて
何時の間にか歩みを止めているイザークに気付き
慌てて俺も踏みとどまった
「どうしたんだよ?」
「しっ」
イザークは人差し指を立てた手を口の前に持っていく
仕草をしてみせる
「…見つけたぞ」
「見つけた?」
「あの女だ」
イザークの首が向いている方向に俺も首を向ける
2、3m程先、拓けた場所のど真ん中に根を張る大木の陰から
一定のリズムで、緑色の袖と白い手が覗く
「何をしてるんだ?あの女…」
「準備体操でもしてるんじゃね?」
「のんきなもんだな」
「で…見つけたのはいいけど、作戦どう立てるつもり?」
「ふん。作戦などいらん」
おいおいおい!
作戦ナシでどうするつもりだイザーク
まさか、正々堂々と勝負するなんて――
「正々堂々と勝負する」
言ったー!!
「お、おいそれ絶対危険だって!」
「俺の方が強いという事実を身体に叩き込んでやる」
最早聞く耳を持ってないな…
土の地面を一歩踏み込むと
「やめろってイザーク!」
俺の制止も完全無視で
一気に大木まで駆けて行った
ご丁寧に
「勝負だ!・!」
宣戦布告付きで。
声に気付いたのか、それともずっと前から
こちらに気付いていたのか
大木の陰から・が現れ
うぉおお!という気合と共に迫るイザークをひらりとかわし
武器も使わず
あっさりイザークを地面に組み伏せ
余裕のスマイルで捕虜第一号を縄で締め上げていた
「だから言ったのに…」
遠くで捕獲されたイザークに呆れを呟いて
・が姿を現した瞬間
咄嗟に地面に伏せた状態のまま
しばらくあちらの動きを見守ることにした
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イザークは熱血漢なので
正々堂々勝負派なのです…きっと