やさしい子守唄#8
扉が開くと、そこに詰める人物こそ違えど
懐かしく、見慣れた光景が広がり
は気が引き締まる思いがしたが
久しぶりの光景に、すぐ溶けこむことができず
扉の前で立ちすくむ
指示が飛び交うブリッジ
前面に広がる宇宙では、光が飛び交う
あの中で、アスランが戦っているのだろうか
ふと考えたの足元で
この場の雰囲気に全く馴染まない
能天気な声が発した
「アーソーボ」
「あ…」
くるくると回り、絡んでくるピンクのハロにが困惑していると
凛とした声が耳に届いた
「ここで何をしているのですか?」
ビクリと肩を震わせ、いつの間にかこちらを向いていたラクスと目を合わせる
「、お部屋に戻っていなさい」
姉ではなく
歌姫でもなく
艦長としての声の視線を見せたラクスに
は圧倒され、一歩後退りかけた体を
なんとかその場に留める
俯かせた瞳を左右に動かし、必死に言葉を紡ごうとする
「で、でもあたしも…何か」
「今、に出来ることはありません」
ぴしゃりと言い切られ
でも!と声を張ったの続く言葉を遮るように
ブリッジ内にノイズと、やや低い少女の声が響いた
『待て…ア…ラン!』
「カガリ…さん?」
怪訝な声で、前面上方の映像へ呟いたラクスと共に
も画面へ目を向ける
『やめろっ…バカな――』
「カガリさん、どうしたのですか?」
『…スラン…止め…一人で――』
障害があるのか、酷く聴き辛い
けれど、何かアスランの身に起こっている
それだけを敏感に感じ取ったは
もうじっとしていることもできず、ラクスの許可を仰ぐのも無理と諦め
ブリッジから飛び出した
「…っ!お待ちなさい!」
すぐにラクスの声が追いかけてきたが
は止まるつもりは無かった
「どこへ行くのです!?」
「デッキへ。あたしも出る」
隣についたラクスの顔も見ずに答えたは
「…落ちついて下さい」
言葉と共に引き止めようと伸びてきた手を勢いよく払った
「触らないで!」
鋭い瞳でラクスを射ると
手を払われた格好のまま、ラクスの動きが停止する
「…」
「アスランはあたしを助けてくれた!」
“仲間”に殺されたかけた時
向けられた銃の向こうにあったアスランの顔を思い出す
咄嗟に助けを求めたのは、アスランだったから
彼なら大丈夫だと、心が言ったから
そしてアスランは、の思った通り
を助けた
「だから…今度はあたしが助けたいの!」
けれど、それだけが理由ではないことをは自覚していた
「恩を返したいだけなら、お止めなさい」
ラクスの瞳が強さを取り戻し
今度はが停止した
「お、恩返し…だけじゃない」
ラクスから目を反らし、意味も無く床を見た
の拳に力が入る
「死んで…欲しくない…」
約束をしたから
浮かんだ理由を、は違うと断じた
「あたし…は」
本当は、気づいていた
何故ラクスが歌姫に相応しいのか
何故自分が戦わなければいけなかったのか
それでもラクスに嫉妬した
自分とラクスの差を考えた
羨ましかった
「ずっと…アスランに憧れてた」
とても、ラクスの目を見ては言えなかったが
それでも必死に、本心を口にした
「だから、死んで欲しくない…」
「なら尚更、行くのはお止めなさい」
非難されるとは思っていなかったが
予想外に優しい声に、は思わず素直な態度で
どうして?と聞いた
「アスランを想うなら、もっとアスランを信じてあげてもいいでしょう?」
「…」
「アスランは必ず戻ってきますわ」
アスランを信じる。
ラクスの言葉に、安心感と敗北感が同時に芽生えた
は頷いたとも、ただ俯いたともとれる
曖昧な反応を見せた
「さぁ、お部屋に戻りましょう」
肩に伸ばされた手を、今度は抵抗無く受け入れたは
「デッキで…カタパルトデッキで、待っててもいい?」
と、小さく聞いた
「少しでも早く、無事な姿を見たいから…」
しょうがない、と笑みを漏らしたラクスが頷いてみせる
「よろしいですわ」
ラクスの手が肩から離れると
は俯いたまま静かに、カタパルトデッキへ向かおうとした
その背中に、ラクスの声が掛かる
「アスランは必ず戻ってきます…の元へ」
「?」
最後の言葉に違和感を覚え
振り返りラクスを見たに、ラクスはただ微笑みかけた
気休めなのか、優しさなのか
浮かんだ疑問は口にせず
もう一度ラクスに背を向けたは、カタパルトデッキに向かった
祈るように、両の手を胸の前で組みながら
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この連載一番の改ざん話。
一度ならずニ度までも自爆しようとしてたアスランとカガリのやりとりが
エターナルに届いてたら楽しいなと思って…
ところで、カタパルトデッキで合っているのでしょうか?
艦内の用語がよく分からないです…