やさしい子守唄#9
自分の考えは甘かった
と、目の前で泣きじゃくるを見ながらアスランは痛感した
一度は選んだ死を放棄したのは、カガリの説得もあったが
生きて帰り、戦争が終わったことを告げれば
の笑顔が見られるかもしれないという思いもあったからだった
しかし、現実には笑うどころか
アスランの姿を見た途端、大粒の涙を流した
動揺したアスランは、ただオロオロと「大丈夫」を繰り返した
「も、もう大丈夫だから…な?」
安心させ、なんとか涙を止めようと焦るアスランに
はふるふると頭を振るだけ
アスランは動揺を止め
小さく溜息を吐き、と呼びかける
「泣かないでくれ…頼むから。戦争は終わったんだ」
「…」
「だから涙じゃなくて、笑顔を見せてくれないか?…なーんて」
優しく冗談のように本音を言ったアスランを
顔を上げたはマジマジと見つめ
余計に涙を溢れさせた
嬉しくて涙を流すなんて、ありえない
短い人生の経験上
そう考えていたも、溢れ出してくる涙に考えを改めさせられた
悲しさや悔しさからではなく
安心し、喜んだ途端に溢れてきた涙
ようやくおさまった今
は涙越しではなく、通常の視界でアスランを見た
「落ちついた、か?」
ホッとした様子のアスランに頷いて
小さくごめんなさいと呟く
「ごめんなさい…急に泣いたりして」
「あぁ…いや」
「嬉しくて…アスランが帰って来ないんじゃないかと…思ったから」
「え?」
「声が…届いて、アスランを必死に引きとめようとする声」
「ああ――」
アレを聞かれていたのか
とでも言いたげに、アスランは緑の瞳を左右へ泳がせた
「あの時は…それが正しい選択だと思って…」
「…」
「命を捨ててでも、父を止められなかった償いがしたかった…」
「…お父様、を?」
全ての状況を把握できていないは
父を止められなかったという、アスランの言葉の全ては理解できない
議長であるアスランの父が、クライン家の抹殺を命じている以上
ラクスと行動を共にし、自分を助けたアスランは
父親と対立せざるを得ない筈
という推理しか出来ていないは不安気な目でアスランを見た
「父は最期まで…俺を見てくれなかった」
「最期…」
胸が痛んで、指先がじんわり痺れた
父親を亡くしたんだ、アスランも
「…アスラン」
泣きそうな声で名を呼ぶと
苦笑いが返ってきた
「そんな泣きそうな顔しないでくれよ」
ふわり。
アスランの頭が肩に倒れてきて、反射的には体を硬直させた
「折角…君の前では泣かないって決めてたのに」
力の無いアスランの声が耳の近くから発し
しばらく考えた後、かけてあげられる言葉が見つからなかった
その代わりに、せめて今自分は泣かないでいようと
は小さく心に決めた
憧れていただけの、遠い存在だったアスランが
こんなに近くに…自分の肩で泣いている
その事実に気づいたのは、しばらく経ってからだった
続いてラクスの顔が浮かんだのは
罪悪感からだった
肩を貸すべきなのは、自分ではなく
ラクスが正しいのだとは心の隅で思う
二人は、婚約者同士なのだから、と
「約束…」
が呟くと、僅かにアスランの頭が反応した
「約束…実行しなきゃ」
「…?」
「あたし、ラクスと話をしてくる」
肩に乗っていた愛しい重みが消え
アスランの顔が正面に帰ってきた
ほんの少し、目が赤かった
「…別に今すぐじゃなくても、もっと落ちついてからでもいいんだぞ?」
久しぶりに出したからか、掠れた声で言ったアスランに首を振る
「今、行ってくる…今ならちゃんと話ができそうな気がするから」
半分は本音
半分は、この状況を壊したい為の言い訳
「…そうか、じゃあここで待ってるから」
名残惜しそうに呟いて、見送る体勢をとったアスランに
は首を傾げる
「アスランは、行かないの?」
「いいよ。俺は、邪魔だろうし」
「え?」
また、違和感を感じた
婚約者なら、一番に会いたくなるものではないのだろうか
アスランは、何かに気を使って会うのを避けているようにもには映った
しかし、口に出して疑問をアスランへぶつけることはせず
背を向けたは、姿の見えないラクスを探した
だいたいの見当はつけていたが
ふいにザフトの赤いパイロットスーツの二人組みが視界に入り
それが誰か、を認識したは
一旦立ち止まり、二人組みへの方へ足を向けた
Back Next
あれ?
イザーク&ディアッカがいたのはAAだったっけな…?
話の流れ上、一時的にエターナルにいるという設定にさせてもらいました。
もう捏造天国。
次回、最終回です。